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電気 vs ガス - キッチン性能比較

キッチンの性能については「性能はガス、安全性・掃除のしやすさはIH」と一般的に言われますが、結果からいうと、どうやらそうとも言い切れないようです。展示場での比較、web上で集めた情報を元にそれぞれのよいところと悪いところをまとめてみました。


火力・機能

単純にお湯を沸かすだけなら引き分けです。一般的なIHとガスはほぼ同時にお湯が沸きました。IHの高出力なものだとガスよりむしろ速い物もあります。一方、オールメタル対応のIHはかなり低出力です。正直、IHを買うなら、鍋は全部買いなおしたほうが良いと思います。

実際の料理の場合、鍋全体が熱くなる分、ガスのほうがかなり有利です。特に大量の炒め物などでは大きな差が出ます。ただしIHに慣れてしまえば、多くの料理については調理時間以外はそれほど代わりません。しかし火力が味を左右するタイプの料理の場合はこの差がかなり効いてくるので、プロの料理人なら「まだ」IHは選ばないでしょう。将来はどうなるかわかりません。

また、IHは1口だけ使う分には結構高出力ですが、3口とも同時に使った場合、合計出力の上限の都合上、それぞれの口の出力が落ちます。ガスの場合、そういう事はほぼありません。ただし、3口を最大火力で同時に使う機会はそれほどないので、自分の料理の仕方を考えた方がよいでしょう。

最近のIHでは「あぶり」などを実現するためのラジエントヒーターが選択できます。ラジエントヒーターなどというとわかりにくいですが、要は電熱線コンロです。海苔やスルメをあぶりたいなら、1口はラジエントヒーターと言うことになります。ただし、「手をかざしても熱くない」というIHの利点を捨てることになりますので、そこは割りきりが必要です。

安全性

それほど変わらない、あるいはややIHの方が安全、というレベル。最新のガス台を使うなら、殆ど差は無くなりつつあります。


まず、ガス台にも鍋検知機能がつきました。セキュリティロックのかかった状態だと、鍋をどけた瞬間に火が最小まで小さくなります。また、長時間そのままにしておくと、アラートの後で自動消化します。温度調整機能もついたため、揚げ物などの際の油温も一定に調節できます。無論、IHは随分前から両方とも標準装備です。

ガスの怖い点は物理的に炎が存在すること。実はうちの母は着ていた服に引火して、あわや大惨事という目に遭ったことがあります。ただし、昔のガス台と異なり、最近のガスの炎は鍋の中央に向かって炎が巻き込むよう制御しており、引火事故などはかなり減りそうです。子供がいたずらで割り箸を突っ込んだりすれば当然燃えますけれど。

調理中の火傷はガスの方が多いでしょう。鍋全体が熱くなることで、調理の効率はよいですが、当然鍋のふちに触って火傷する機会も増えます。体験会でも中華なべの取っ手を握る指が鍋振りの際に随分熱くなりました(火傷するほどではありませんでしたが、指が真っ赤になりました)。鍋全体が熱くなることにはメリットとともにデメリットもあると言うわけです。オーブンと電子レンジの違いだと考えるとわかりやすいでしょう。


一方、調理後の火傷はIHの方が多いでしょう。IHの怖い点は調理面が熱くなること。そして、それが感覚的にわかりにくいことです。調理面が熱い間は赤いランプがつくのですが、昼間見ても殆どインパクトがないため、うっかり手のひらを置いたりすると、大火傷、なんて事がありえます。したがってIHキッチンの場合、濡れ布巾を沢山準備しておいて、「調理が終わって鍋をどかしたら布巾を被せておく」のを習慣にするそうです。

無論、ガスだってゴトクが熱くなるのですが、熱くなる金属の面積が狭いのですぐに冷えます。また、あの形ですから上に手を置いたりしないせいで、火傷の機会は少ないようです。

今後IHが普及すると、「IHが熱いという感覚」が身につくため、火傷は減ると思いますが、少なくとも現状の小さな赤ランプは危険通知としては目立たなさ過ぎます。今後、温度にあわせ、各口の調理面が赤⇒オレンジ⇒黄色⇒消灯と変わるぐらいの工夫はすべきでしょう。


キッチン火災の殆どは油の炎上が原因です。これは火が回りこむからではなく、油温が300度を越えることによる自然発火によるものです。実は、両者ともそれを温度センサーで回避する機能があります。

ただし、ガス会社の営業さんの話によると、ガスの温度センサが鍋に直接触れているのに比べ、IHのセンサはガラス面の下にあるため、やや感度が鈍いとの事。実際にIH機器のホームページには「油量が少ないとセンサが正しい温度を判断できないことがある」と明記されています。IHだからといって油から離れてはいけません。無論ガスだって離れてはいけませんが。油火災については引き分けか、ややガスが有利でしょう。


IHの未知の怖さは電磁波です。特に意味はないという意見もあれば、かなり危険という意見もあり、国際的には「安全側に振ろう」という意識から、電磁波の量に関しては厳しい制限がかけられています。一方、日本は電磁波に対して意識のかなりゆるい国で、制限はなかったりあっても国際的に見てゆるい制限だったりします。IHに関しても例には漏れず、かなりゆるい制限しかかけられていません。

無難さを選ぶなら、ガスにするか、オール電化でもIHではなく、全部ラジエントヒーターという手もあります。ともあれ、なにぶん未知の領域ですので、「IHの電磁波って危ないかなぁ」などと携帯電話で喋っているの姿はシュールすぎて笑えます。

WHOは「危険とは言ってない」点にご注意ください。仮に危険性が認められたとしても発がん性は珈琲程度です。蓄積すれば凄い量にと考えるか、気にしても仕方がないと考えるかは本人次第です。少なくともPC、テレビ、携帯、高圧電線などの方が危険な気はしますけどね。10年前の携帯は、喋っていると側頭部が変に熱くなりましたっけ....。


さて、リスク管理の観点からまとめを。IHの安全装置が壊れることで大火災・大事故、というのは殆ど考えられません。一方、ガス機器の安全装置が正常に働かなかった場合は、大事故が「懸念」されます。非常に確率は低いので、あまり考慮する必要はないレベルですが、ガス爆発、一酸化炭素中毒などの懸念はIHならゼロなので、そこは「気分的に」安心でしょう。「IHだって感電するかも」という人もいますが、ガス台も電気で制御していますので、そこのリスクは同じです。

一方、日常の火傷の回数は良い勝負だと思います。ガスは平均的に小さな火傷を、IHはうっかりしたときに面で火傷をしそうな違いがあるぐらいでしょうか。強いて優劣をつけるなら、現状のIHの方が火傷の回数はやや増えそうです。


そんなわけで安全性に関しては「ほぼ変わらずどちらも昔より安全。ただし日常の火傷が多いのはIH。もしもの時にダメージが大きそうなのはガス。未知の危険をはらむIH」とまとめておきましょう。どちらにしても過剰な信頼をせず、きちんとした火の元管理が必要だと感じました。


掃除・匂い・換気

キッチン自体の掃除が楽なのは圧倒的にIHです。最近のガス機器は随分掃除しやすい設計になってはいますが、IHにいたってはただのガラスの板ですから。揚げ物の際に鍋に紙で蓋をしたり、汁が飛びそうな煮物の場合、布巾を鍋にかぶせたりなど、調理中に汚れを防ぐことができる点も大きいでしょう。

一方、料理の匂い、汚れ、水蒸気が部屋中に広がりやすいのもIHです。ガスでの調理中は炎が起こす上昇気流のおかげで、匂いなどの粒子が換気扇にむかってまっすぐ上昇します。一方、IHの場合は上昇気流が殆ど起きないため、匂いなどが部屋中に充満しがちです。したがって、IHを選んだ場合、換気設備を高性能な物にする必要があります。それを怠ると、換気扇は綺麗なのだけれど、なぜか部屋の壁が....なんて事態になりかねません。

ガスを燃やすと水が発生します。これが意外と結構な量になるので、湿気予防のための換気が必須となります。とはいえ、料理をする場合、料理自体から出る水の量がかなりの物なので、どっちにしても換気は必須となりますけれど。また、ガスの場合は燃焼に酸素が必要となりますので、そういう意味での換気はIHより重要となります。結局のところ匂い・換気の両方の理由でIHだろうと、ガスだろうと、台所の換気は重要なわけです。


災害への対応

オール電化にすると停電しただけで何も出来なくなるので、災害のときに困る、という意見がありますが、今のガス機器は停電すると使えません。また復旧速度は電気が一番早いため、災害対策でガスを併用するメリットはほぼありません。それぐらいなら、ガスボンベと携帯コンロを備蓄した方が効果は上です。また、災害時の安全性は電気の方が上でしょう。ガスがどう頑張っても、引き分けに近づくだけで、勝つ事はありません。


その他

・ガスキッチンの場合、いくら最新式でも多少はガスのにおいがします。

・ガスで「セキュリティロック解除」をして調理する料理の場合の安全性がやや気になります。

・IHは磁力で反発して鍋が動くのを防ぐため、ある程度重さのある鍋しか利用できません。

・IHは電磁誘導で加熱を行うため、鍋自体に振動が発生する事があり、それは手ではっきり感じられる程の強さです。

・どちらのキッチンも最新のものは台がフラットになっているため、吹きこぼれが激しいと、床までそのまま流れてしまう可能性があります。特にアイランドキッチン・オープンキッチンの人は気をつけましょう。


まとめ

結局のところ、性能はガスのほうが上と言って差し支えないでしょう。安全性はIHのほうが若干上の気がしますが、今までの半生をガスで安全に暮らしてきた経験から、「性能と交換しても悪くない程度の差」だとは思います。しかし一方で、安全が一番大切という思いも捨てきれません。悩ましいですね....。