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十二国記 華胥の幽夢

作者:小野不由美/ 原作:/ 56点
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■はやく本編を....

 

註)「月の影 影の海」「風の海 迷宮の岸」「東の海神 西の滄海」「風の万里 黎明の空」「図南の翼」「黄昏の岸 暁の天」を読んでいる前提で、以下の解説を書きます。前作までのネタバレが散在するかと思いますので、未読の方はご注意ください。また、以前の作品を読んでいないと分からないような話もそのまま書きます。気になる方はそちらを先にお読みください。

 

「華胥の幽夢」は脈々と続く十二国記シリーズの登場人物たちが活躍する短編集である。懐かしい顔ぶれたちや、あまり登場しなかった人物の人となりなどが深く掘り下げられ、上記の既刊作品を網羅終えているファンには中々楽しい一冊。でもね、「黄昏の岸 暁の天」のときにも似たような指摘をしたけど、本作には「外伝」ってつける義務があると思うんだ。駅のホームなんかでふと手に取った一冊がこれだとしたら、悲しい事になる。本編無しの短編集としては全く成立していない作品である以上、何らかのガードをするのがマナーでしょ。

あと、ファン全員の気持ちを代弁するなら、こんな短編集書いてないで、早く本編を進めてください!(涙)そんなわけで、評価はかなり低くさせて戴いた。内容がどうこうではなく、早く続きが出ますようにとの期待を込めて。いや、ここまで期待が大きいと大変なのはよくわかるので、マイペースでいいから、続きを必ず....。

 

【冬栄】

驍宗の登極間もない戴国から、使節として泰麒が漣国を訪れる話。仕事とは何か、みたいなことを泰麒が学ぶお話だ。なるほどねぇと思う反面、それでいいのか?とも思う。十二国の設定上、王は存在するだけで国に利があるから、廉王があんなでもかまわないのだろうけど、これが通常の地球上の国家だったら、単なるサボタージュの言い訳に過ぎない。独立した短編集として成立していないと苦言を発した所以の一つである。

 

【乗月】

峯王・仲韃を討った月渓の後日談。狂王を討ったまでは良いが、「そんな権利は無い」と政権は握らずにいた月渓とその周囲の人間たちのお話だ。代表を批判する事は容易いが、「じゃぁお前が代わりにやれよ」といわれると二の足を踏むという事は多い。自らの行動が単なる逃げに過ぎないのではと気づかされた月渓が立ち上がるまでを描いた作品だ。

ところで、上記のような事を書くと、代理をする勇気の無い批判が悪い事のように感じられてしまうが、そうではない。純粋なる批判自体は決して悪ではない。批判への批判はレストランの料理を批判した客に「じゃぁお前作ってみろ」と切れるコックのように見苦しいので注意したい。本作品は、批判に留まらなかった以上は、というお話である。

 

【書簡】

陽子と楽俊が手紙(と称しても問題なかろう)を交換するだけのお話。一言で説明すれば、山本正之氏の歌った「カラ元気でも元気」である。あの人にみっともない姿は見せたくない、とカラ元気を奮い立たせてくれる友人というのは大切である。

 

【華胥】

特に狂ったわけでもなんでもないのに、采の国は傾き、采麟は失道してしまう。王・砥尚の国政の何がいけなかったのか、というお話だ。ストーリーは珍しくミステリ仕立て。「小野不由美ちょっと遊んでるな」と思ってしまった。

物語の主題は「乗月」に少し似ている。間違いを指摘する事は容易いが、正解を述べる事は難しい。これを書いている2011年の状況で説明すると、自民党を倒す事はできても、なんら満足のいく政策を打ち出せない民主党の姿が分かりやすいだろう。

 

【帰山】

珠晶編で活躍した利広が柳国を視察に行く話。そこで同じく長生きなアイツと出会う。二人の会話が物語のメインとなる。表面だけ読めば長く国を治めることの難しさや、ホームドラマ的暖かさを主題とした作品だが、深読みすれば十二国の世界観に大きく触れた作品ともいえる。国が栄えていれば永遠に生きられる王。それはすなわち、死ぬ為には必ず国を荒らさねばならない事を意味する。国を荒らすか、自殺するか、簒奪されるか。いずれにしても安らかな死など王には準備されていないのだ。

 

 

ところで「狂王」という表現を使って、狂の字の成り立ちが気になり、調べてみた。元々「狂」の「王」の上には足を意味する「屮」が含まれていたそうな。で、王って文字はもともと王の権利や霊力を象徴する鉞(まさかり)を象った物。神聖なる鉞に足をかけ、神がかりな精神状態になる事を「狂」としたのが由来だそうな。そう考えると、王というのは元々「狂」にもっとも近しい存在なのだな。

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