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十二国記 風の万里 黎明の空(上・下)

作者:小野不由美/ 原作:/ 91点

■不幸自慢はやめなさい

 

註)「月の影 影の海」「風の海 迷宮の岸」「東の海神 西の滄海」を読んでいる前提で、以下の解説を書きます。前作のネタバレが散在するかと思いますので、未読の方はご注意ください。また、以前の作品を読んでいないと分からないような話もそのまま書きます。気になる方はそちらを先にお読みください。

 

本作は十二国記の4作品目に当たる。主人公は景王の陽子、胎果である鈴、峯王の娘の祥瓊という3人の娘だ。3者はそれぞれの理由で市井に降り、そこである事件をきっかけに出会う事となる。いまひとつ影の薄い主人公であった陽子が、ようやく物語の中心を担うようになった感だ。また、作品の焦点も、これまでの「世界観の説明」的なところから、もう少し深いところに踏み込んでいるように思う。

 

以下、ストーリーの概略に触れる。ネタバレ嫌いの方はスキップ

 

さて、ネタバレ内で語った、シリーズ全体としての見所とは別に、毎回何らかのテーマ性をもって描かれる十二国記だが、今回のテーマは「不幸の評価」だろう。部下の謀反によって父を殺され、「王の娘」から追い落とされた祥瓊と、胎果であるため言葉が通じず、縋った先でも冷遇され苦労した鈴。二人の娘は自らの境遇を呪い、世間を憎み、それぞれの思いをもって、景王陽子の元へと向かう旅にでる。

しかし、そこで二人が学ぶのは「自らの不幸を自慢する事」のむなしさだった。作品の途中まで、読者が二人の目線で読むように作られている点が非常に巧み。同調しているがゆえに、二人の身勝手さが見えてくるにつれ、読者も恥ずかしくなるし、二人が悟る頃には読者も甘えた考えを改めさせられる事となる。不幸自慢は見苦しい。頭では分かっていても、病院内では重病人ほど偉く、職場では残業時間が長いほど偉い、そう思ってはいないだろうか。

 

途中少しだけ登場する珠晶のキャラクタが秀逸。面白いなと思っていたら、きっちり次作の主人公として採用されていた。彼女の魅力についてはそちらで。