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十二国記 図南の翼

作者:小野不由美/ 原作:/ 98点
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価格:693円(税込、送料別)

■どうせ分からないと侮る無かれ

 

註)「月の影 影の海」「風の海 迷宮の岸」「東の海神 西の滄海」「風の万里 黎明の空」を読んでいる前提で、以下の解説を書きます。前作までのネタバレが散在するかと思いますので、未読の方はご注意ください。また、以前の作品を読んでいないと分からないような話もそのまま書きます。気になる方はそちらを先にお読みください。

 

十二国記5作目である本作の主人公は、前作「風の万里 黎明の空」で登場し、出番の少なさにもかかわらず強烈な印象を残した供王・珠晶が王となるまでの道のりを描いた作品である。これまでの作品を楽しんできた読者なら、絶対面白いと思うので、こんな感想なんて読む前に、作品を読んで欲しい。

 

十二国記の世界における国民は、元来全員が借地農のようなものである。成人すれば国から土地をもらい、死んだら自分の財産を国に返す。非常に社会主義的であり、富の集約は起こり得ないように見える。しかし実際には、土地を売って現金を得て、別の職業につく者も多いため、土地を買い集めた商人が保護の名目で浮民をあつめ、富を集約する事が可能となっている。そして自分が死ぬまでに財産を子に与え、国に帰すべき富はごく僅か、という状況を作るわけだ。

本作の主人公・珠晶はそうした非常に裕福な商人の娘である。年齢は僅かに12歳。利発な子供ではあるが、鼻っ柱が強く、周囲の大人たちとはぶつかってばかりだ。彼女の一見反抗的な行動は、周囲の大人たちの行動への不満によるものだった。供国では長い間、王座が空席であり、そのために国は荒れ、村に妖魔が出没するようにさえなっていた。しかしそんな状況においても、周囲の大人たちは昇山して王となれるか否かを試そうとはしない。文句を言うだけで現状を打破しようという気の無い大人たちにいらだっていたのだ。

 

そこで、珠晶は自分こそが昇山して王となってやろうと、家を抜け出す。壮大なる家出ストーリーの始まりである。この珠晶というキャラクタが本当に魅力的。前半はとにかく頭の回転のよさで大人を出し抜き、どんどんと前へすすむ。中盤には子供ならではの視点で、何が正しいかを本能的に選択し、力強く進んでいく。大人なら「○○するのが普通」と考えるような、そういう「凝り固まった思想」という足枷が無いからだ。

しかし、そういった子供らしい無邪気さだけで物事が進むわけも無く、途中迷ったり挫折したりするのだが、これまた、潔い反省と強い意志にて全てを解決し、見事にゴールまで突き進む。とにかく読んでいて気持ちのいい一冊だ。

 

さて、毎回教育的な含蓄のある十二国記だが、今回のテーマは、『「どうせ貴方には、私の気持ちなんて分からないのよ!」....なんて、鬱陶しい事言ってんじゃねぇ!!』って所だろう。物語中の珠晶はとても恵まれた存在として描かれている。逆に言えば「子供だから大人の大変さなんて理解できない」「どうせ金持ちには貧乏人の気持ちは分からない」といった、逆差別を一番受ける対象である。

とまぁ、そんなわけで、「子供」「恵まれたもの」という設定が如何に計算されたものであるかに感心した。いや、素晴らしい。

 

 

ちなみに、アニメ版でどんな姿で描かれているのか未確認だけど、アニメ栄えするキャラだよなぁ。あの『馬鹿』発言も含め、どうも「ルリルリ」とイメージが重なってしまうのだ。