下北サンデーズ作者:石田衣良/ 原作:/ 79点
■演劇の世界へようこそ
ブルータワーに続いて手にとった一冊である「下北サンダース」は、とある劇団員たちのお話である。劇団員ってのは基本的に儲からない職業である。いや、この表現は語弊があるかも知れない。もう少し正確に表現すると…。 …ここまで読んで「あれ、この表現どっかで読んだなぁ」と感じた人。デジャブー現象ではないです。気づいてくれてありがとう。このサイトの常連さんですね。 本作品は以前にレビューしたシアターに非常にそっくりな設定の、劇団員たちの姿を描いた物語である。ちょっと笑ってしまうぐらいに。しかしそっくりな設定の物語であるにもかかわらず、味付けは全く別であり、作家によってここまで描き方が違うのかとちょっと感心してしまった。なのでどちらかを読んだという方は記憶の新しいうちにもう一方も読んでいただきたい。
本作品の主人公は若干18歳の少女である。彼女は高校生の時に生まれて始めて観た演劇に感動し、いつか憧れのメンバたちと同じステージに立ちたいと、上京して下北サンダースの門を叩いた。しかしそこに待っていたのは、成績優秀かつお嬢様育ちの彼女には信じられないような光景だったのだ。 しかし彼女はそれに怯むことなく、他のメンバ達と同じように、貧乏だが夢だけは大きい劇団員の一員として、成功目指して演技を磨くことになるのだった。
物語は結構ストレートで、凝った設定や大逆転なんかはなく、ストレートに劇団の面白さや劇団員間の人間関係などを描くことに集中した作品である。なので読後にビックリしたり鳥肌が立ったりするような展開はない。けど、その代わりに物語のテンポは非常に良くて、かなり楽しく読まされてしまう。 本作における「シアター」との大きな違いは、読み終わってから演劇をやりたくなるかどうかである。本作品の場合、ちょっと演劇がやりたくなってしまうのだ。そういう読後感の部分に限って評価するなら、シアターより本作のほうが魅力的といえるだろう。
では何故そのような違いが発生したのか。以下、比較して説明するため、両作品のストーリー展開に関するネタバレ
ネタバレ内で語ったような違いにより、シアターを読んだ一般人はおそらく演劇を始めない。怖くて手が出せないからだ。一方、本作品を読んだ一般人は、「自分も演劇の世界に入りたい!」と夢見ることになるはずだ。なので一般人には本作品のほうがウケが良いだろう。 一方、長年演劇をやってきたけれど、成功には縁遠いし、いつやめるべきなのかもわからないと悩んでいるような、既に演劇の世界にどっぷりと使っている人にはシアターのほうが心にしみこむだろう。本作品を読んでも「そんな風にいくかよ!」と思うのに対し、シアターを読めば、頑張る方向性を見つけるか、諦めるラインが見極められるか、自分たちが楽しみのために演劇をやっていることを思い出し、採算を捨てる決意が得られるだろうからである。
ってなわけで、両作品のどちらが面白いかは人によって違うだろう。そしてどちらを実践したら成功するのかだってきっと運次第だろう。だからこそ何かに挑戦する意味があるのでは無いだろうか。
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