パルテノン アクロポリスをめぐる三つの物語作者:柳 広司/ 原作:/ 96点
■B.C.世代の人間の志の高さに圧倒される作品
パルテノンはB.C.4〜5世紀ごろのギリシヤの姿を書いた作品である。全体は3つの中編に分かれており、歴史物であるがゆえにすべての物語はゆるく繋がっているのだが、それぞれの物語の登場人物等に直接的な関連性はなく、それぞれ独立した作品として成立している。
最初に結論を書いてしまうと、これは傑作。大当たりです。「蒼穹の昴」のような歴史物が好きな人は絶賛間違い無しの名作。しかも時代が目一杯古いがゆえに、自分のように世界史に疎い人間には「十二国記」などのような架空の国家であるかのごとく世界観を紐解く楽しみも味わうことができるのだ。さらにいうと、ストーリー読みをしている人間もガッツリ楽しめるような構造になっていて、特に3話目は感涙モノ。 まだ読んでいないという人は、悪いことは言わないのでこんなレビュー読んでないで本屋か図書館へ行ってください。同じ本好きとしての忠告です。
以下、各章ごとのレビュー。大まかな構造を話してしまうため、歴史物とはいえネタバレに注意。
【巫女】 とある非常に有能な巫女の人生を描いた作品。彼女は若いころ非常に美しく、能力も高いということで非常に権力のある地位を得たのだが、彼女が高く評価されている理由は美貌や予言の能力に頼ったものではかった。なんと彼女は、間者や伝書鳩などを用いて広く情報を集め、その豊富な情報を深い知識で分析することで、神のお告げに見せかけながら、論理的に政治を動かしていたのである。 順調に名誉や金銭を蓄える巫女だったが、ペルシアによる進行を受け、彼女の人生計画は大きく狂うこととなってしまう。
【テミストクレス案】 時代は「巫女」より少し後。なんとかペルシア軍を撃退したギリシアは穏やかな日常を取り戻している。古代ギリシアは民主化の途上であり、国民は自由に誰かを訴え、裁判を起こす権利を持っていた。 テミストクレスは先の大戦にて大活躍した、押しも押されぬ英雄であったが、道端でのほんのちょっとした会話が気に入らないと彼を訴えた男の登場により、裁判にかけられることとなってしまう。そしてその裁判はあろうことかその会話の内容ではなく、彼が本当に英雄と呼べる人間なのかどうかに焦点を当てたものになってしまうのだった。
【パルテノン】 さらに時代は進む。物語の主人公は政治家であるペリクレスである。彼は貴族の出身であったが、古代ギリシアに本当の民主主義を根付かせるため、彼の人生をかけて奔走する。 彼の幼馴染である、フェイディアスは自由奔放な芸術家で、心の底からの美の信奉者である。芸術は純粋に美のためになされるものであるとの信念があり、金銭のための制作をよしとしないため、もっぱら先祖からの財産を食いつぶしながら生活している。 そんなペリクレスは順調に出世を重ね、将軍職につき、とある目的のために神殿の再建を計画する。そしてその再建計画の総監督を友人であるディアスに依頼するのだった。タイトルからバレバレなのであえて書いてしまうが、これこそがかの有名なパルテノン神殿の誕生の瞬間である。
おまけ: ところでこの本は奥様が図書館で借りてきたのだが、そのタイミングが絶妙だった。先日大矢博子さんのラジオ番組で柳広司氏の「怪談」という作品を紹介していた。で、興味が湧いたので読みたいなと思って家に帰ったら、本棚にこの本がおいてあるのを発見したのだ。テルマエ・ロマエを読んで古い世界史が懐かしくなった奥様が、たまたま図書館で借りてきていたという偶然。作家なんて星の数ほどいるのに、なんとも凄いタイミングだ。それで面白かったのだからもう、言うことはない。
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