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もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

作者:岩崎夏海/ 原作:/ 80点

■いろんな読み方ができ、非常に面白い

 

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、通称「もしドラ」は「高校野球部のマネージャーが、ドラッカーのマネジメント本を読んだら...」という内容の、今更紹介するのも恥ずかしいような、超有名作品である。売り上げは200万部を越え、あまりの好評ぶりにアニメ化、映画化まで一気に決まってしまった。

 

本作品は2つの見方で楽しむことが出来る。1つはドラッカーのマネジメント論をわかりやすく解説した、シンタックスシュガー(糖衣構文)のような作品として、もう1つは純粋な野球小説としてである。

 

通常、本作品は前者として捕らえられているように思う。自分もシステム開発を生業としており、プロジェクトマネージャーとしての責務を負わされることが多くなったため、その目的で本書を手に取った。

実際、そういう観点で本書を読むと、実にわかりやすい構造となっている。企業(あるいは団体)が何を目的に活動すべきなのか。組織を良くするためにはどこから手をつければよいのか。マネージャーの役割とは何か。組織の社会責任とは何か。会社経営を野球部の運営に置き換えることで、これらを非常にわかりやすく説明することに成功している。例えば「社会貢献」の部分など、無意味な募金が本来の社会貢献ではないことや、正しい社会貢献がどのように正のループを生み出すか等を、非常にわかりやすく表現している。

 

 

様々な書評が上述のような価値について語っていると思うが、自分は後者の魅力にも注目したい。実は本作品は野球小説として意外なまでのリアリティを産み出しているように思うのだ。確かに本作は弱小高校を短期間で強くするという設定上、ご都合主義な部分が多く、全ての試みは理想的な結果を産み出す。しかしだからと言って本作品が他の野球小説や野球漫画に比べて、非現実的だと断ずることが出来るだろうか。

多くの野球作品は、生まれつき才能がある選手がいたり、チームワークが良かったり、努力と根性が実ったり、そんな理由で甲子園出場を果たしたりする。しかしそんな事が本当に起こり得るのだろうか。超高校級の投手のいるチームが地方予選であっけなく消えることもあるし、努力と根性による練習の積み重ねなら、おおよそ日本中の全ての学校が実践している筈である。

一方、この物語の野球部は、愚直な努力ではなく、勝つために問題点を挙げ、具体的改善を行い、他のチームが行なっていないような新規性のある戦略、「イノベーション」を行うことによって、大きな効果の期待できる方向の努力を実践しているのだ。彼らが他のチームに比べ、有利な立場に立つことは想像に難くない。また、「イノベーション」の例として、実際に日本の野球界において成功した実例を引用していることもあり、該当のシーンの説得力は非常に高い。

 

 

秀逸なのがラストのワンシーン。最後のあの台詞は、日経誌などにインタビューを受けた際の社長のそれに等しい、素晴らしいものとなっている。あの一言のおかげで、読後の後味が素晴らしいものになった。

正直、泣かせ所などは最初の数章で結末がわかるぐらいにベタベタで気恥ずかしくなるぐらいではあり、細かい突っ込みどころは多々あるのだが、そんなことが気にならなくなるような美しい締め。いろんな人に読んでいただきたい1作だとおもう。