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作者:金城一紀/ 原作:/ 93点
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■マイノリティを取り扱った小説の傑作

 

見出しに書いたとおりである。直木賞受賞も納得の、非常に良くできた、そして気持ちのいい傑作なので、未読の方はまずはブラウザを閉じて、本屋に向かっていただきたい。読み終わった方は、僕と感想を共感いただければと思う。

 

本作品の主人公は在日コリアンである。彼は中学までは朝鮮学校に通っていて、民族学校開校以来の馬鹿と呼称されるような成績の持ち主であった。しかし、とある思いから熱心な受験勉強を行ない、日本の普通高校に通っている。彼は元日本ランカーである父にならったボクシングで喧嘩に明け暮れ、ヤクザの息子にも一目おかれるような、とにかく「強い男」だったが、一般的な不良だとかそういった存在ではなかった。ただマイノリティであるというその一点が故に、彼は周りの「普通」にうまく溶けこむことが出来ず、一方的に訪れる挑戦者を叩きのめしているだけだったのだ。

さて、そんな猛々しい主人公だが、とあるパーティの会場で、運命的な女性と出会い、かれのひたすら孤立し続けた人生は大きな変貌を遂げる。彼女は彼と同じ感性を共有できる存在であり、彼は包み隠さずほとんどすべてのことを彼女と共有することができた。ただ一つ彼の国籍以外は。

 

この物語の何より素晴らしい点は、主人公があくまで清廉である点だ。両親に問題がある、兄弟が早死にした、幼い頃に酷い目にあったなど、何らかの理由で周囲から浮いてしまった少年を描いた作品は多い。それらの少年の多くは感情の起伏が激しく、酒や煙草やクスリに明け暮れ、女にだらしない。そして殆どの場合、自分が正義の具現であり、世の中が間違っているという、安っぽい中二病を罹患している事が多い。その結果、知的に描かれている筈の主人公がどうにも魅力的に見えないことも多い。

しかし本作品の主人公は典型的な「浮いた存在」でありながら、とにかく魅力的なのだ。酒や煙草やクスリには興味を示さない。女性関係は非常に保守的。暴力的ではあるが、自らに振りかかる火の粉を振り払う以外の目的でそれを行使することはあまりない。

なので彼の知性は非常に好意的に受け止めることができる。彼女とのデートにおける趣味の会話は、ほんとうに素敵である。学校の成績とは関係のない彼の知性が、鬱陶しくなることなく、暖かく染み出してくる。また「電車のエピソード」も男子からすれば非常に魅力的である(だからといって真似はしないけどね…)。

 

そんなわけで、僕は主人公が好きなままで物語を読み進めることができた。なので、物語終盤に彼がひどい状況に陥っても、僕は彼を心配し、応援する立場で読み進めることとなった。この手の小説の多くが読み手に対し「そんな事ばっかりやってるからこうなるんだって!」という感想しかもたらさないのとは大違いである。

 

また、様々な布石が綺麗に回収されるのも気持ち良い。青春小説の多くが気持ちの話に終始ししてしまいがちなのに対し、本作は物語のストーリー展開の面白さも大切にしている。最期まで読み終わった時に「あの時のあれが」とスッキリすることとなるので、序盤の物語も大切にかみしめて読むようにしたい。

 

そして何よりもいいなと思った点が2つ。以下、結末に関係する重要なネタバレ。未読の人はスキップ

 

上記に述べたような理由により、暗くなりがちなタイプの青春小説であるにもかかわらず、中垂れしないし、読後も爽やかな良作だと思う。気持ちよく読める上に、日本におけるマイノリティの扱いがどの様なものであるかなど、とても重要な知識も得られる作品。読んで損は無いので是非。

 


おまけ:

本文中で主人公がタイトルだけ引用して、読者には教えてくれなかった詩が気になったので調べてみた。

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