蒲生邸事件
作者:宮部みゆき/ 原作:/ 61点
■偽善的
主人公の孝史は高校3年生。大学受験に全て失敗し、予備校の受験の為に、父の会社の持ち物である、とあるホテルに泊まることとなった。そのホテルは「蒲生邸」と呼ばれる古い建物のあとに建設されたものだという。孝史は同じホテルに宿泊する異常に陰気な男の存在をいぶかしがっていたのだが、その男は突如、非常階段のところで姿を消してしまった。飛び降りたのかと慌てて探す孝史だが、男は何事も無かったかのように、別の場所から姿を現した。このホテルはいったいどんな由来をもつホテルで、陰気な男の正体は一体何者なのか、というのが物語冒頭で示される、物語の主軸となる。
さて、物語は続く章でいきなり大きな展開を見せる。なんと孝史が目を覚ますと、ホテルは炎に包まれており、孝史は完全に逃げ遅れた、絶体絶命の状況に追い込まれていたのだった。
とまぁ、ここまでが冒頭の展開なわけだが、正直だるかった。主人公がかなり嫌いなタイプの性格だった上に、だらだらと長く、そのうえこの導入部分の設定は、物語中盤の展開には殆ど影響しないからである。なんだかなかなか読み進まないなぁ、と感じながら読み進める羽目になってしまった。
以下、核心に触れるネタバレが多くほめ言葉は少ないため、未読の人はジャンプ
ネタバレ1
この物語はSF+ミステリである。陰気な男はタイムトラベラーで、主人公は彼とともに2・26事件真っ最中の蒲生邸に向かう事となる。陰気な男、平田のタイムトラベルの目的と、蒲生邸での殺人事件が本作品のメインなのだが....正直うーんと言う感じ。まず、ミステリパートはうん、まぁ、好みの問題だからおいておこう。
問題はSFパート。タイムトラベルの矛盾の処理の仕方には大きく3パターンがある。1つはスター・トレックのようなパラレルワールドタイプ。「トラベルごとに世界に枝が分かれ、元の世界には影響が無い」というやつ。1つは時をかける少女のような、矛盾許容タイプ。「過去を変えると未来が変わって、慌てて変えた過去を変えにいくとまたとんでもない事が...」というやつ。そして最後の1つが今回のタイプ。「歴史には弾性力があって、何かをちょっとぐらい変えても、結果は同じになってしまう」というものである。
で、平田って奴が、「事故で死んだ人を助けたら、他の人が同じ様な事故で死んで」と語るあたりで怒り爆発。いや、それで落ち込むのは構わない。結局代わりに誰かが死んでしまうのだ。だから、死ぬべき運命の人を助けるわけには行かない。だったら、自分なら「死ぬべき人」を助けに行く自分を止めるべくタイムスリップして、歴史を変えないようにするだろう。だって、自分の身勝手な感情で、死ぬべき人を生かし、生きるべき人を死なせたのなら、せめて元に戻すべきだろう。その責任すら果たすことなく、「僕らは出来損ないの神なんだ」とかふざけた事を言ってるんじゃねぇ!と思った。
その時点で彼らの行動にはなんの感情移入も出来なくなってグダグダ。終わりがけに、彼がもう「ただの人間になりたい」といいつつ、主人公の彼が歴史を変えようとしているのを手伝ったり、写真に悪ふざけをしている時点で「口先だけじゃねぇか!」と怒りさえこみ上げた。
あとは、タイムスリップのルールが特殊すぎる。過去で4日たったから、戻ったら4日たってるって、どんなタイムスリップだ。1年たってても、火事の直後に戻ればよいだろう。体調が悪くなるのを知ってて、連続ジャンプした軽率さにもいらいら。後半に出てくるあの連続ジャンプも、命を削る必要はまったく無い。xxxxのxxxxによるタイムアップを気にしているのなら、未来に飛んで、元の時代に飛ぶときに元よりも数日前に戻ればよい。そしたらじっくり休息をとってからジャンプしても連続ジャンプと同じ結果になる。そういう「対策」がいっぱい思いついてしまうので、「一度飛ぶと足跡が」とかそういう「一般的SFにはない限定条件」の数々が、後づけの言い訳にしか聞こえないんだよなぁ....。
とまぁ、ネタバレ内に散々な事を書いたのだが、そういう細かい設定にこだわりの無い人には結構面白く読めるのかも。ただ、あんだけ世界を引っ掻き回して最後の結末が「少年の精神的成長」なんて冗談じゃねぇ、と思ってしまう。ってか、天才宮部みゆきにもこんな時代があったのね...。
最初に読むならぜひ模倣犯をどうぞ。
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