空中庭園作者:角田光代/ 原作:/ 86点
■この重苦しい文学性に耐え切れるか
自分は知らなかったのだが、角田光代という作家には表の顔と、恐い裏の顔があるようだ。先日読んだ、「予定日はジミー・ペイジ」は表の顔で書いた、とてもハートフルな物語。一方、本作品は裏の顔の魅力が発揮された、なかなか恐い作品である。
舞台となるのは、ダンチという通称で呼ばれるとある分譲マンション。主人公はそこで暮らすある家族の面々である。この家族には一つのルールがあった。それは「家族で隠し事をしない事」である。しかし、一見すると隠し事の無いように見える家族にはそれぞれの秘められた思いがあるのだった。
本作品はもともと文藝春秋別冊に連載されたもの。それぞれは独立した短編となっており、1話ごとに主人公が代わる。第1話でちょっとした青春小説的に始まった物語は、視点が変わるごとに重みを増し、中盤にはかなりウンザリしてしまう。しかし、このウンザリ感は完全に角田光代の計算どおり。終盤に悲しい物語へとシフトした後に、書き下ろされた最終話にてほっこりと救われてしまうのだ。おそらく構造だけを取り出して説明するとさほど珍しいものではないのだろうが、個々の完成度が高くてとにかく「凄いな」と圧倒されてしまった。その一方で、読中につらい思いをしたのは事実。重たい物語が苦手な人にはお勧めしません。
家庭と言うのは空中庭園のように不安定なもの。けど、それを俯瞰してみたときに、作り物の庭園とさげすむのか、結果的に何らかの美しさが生み出されていると評するのかは、それを見る人の心次第なのかもしれない。
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