模倣犯作者:宮部みゆき/ 原作:/ 100点
模倣犯と言えば宮部みゆきの代表作の1つであり、中居正広主演の映画化により非常に有名になった作品だ。ミーハー嫌いで人気作を避ける傾向にあるbaristaは、そのあまりに分かりやすい、と思わされてしまう、タイトルも相まって、長く手を出さずにいた。しかし、読んでみてこれまでの誤解を後悔した。本作はとんでもない化け物作品だったのだ。
本作は典型的な「最初から犯人がわかっているタイプの作品」だと聞いていた。しかし、1巻は被害者からの視点で物語が進められる。2巻・3巻になって漸く犯人視点での物語が開始するが、読者は犯人視点で読むことにはならない。 本作品のあまりに緻密な描写は、犯人視点の物語を、被害者視点の仮想現実へと昇華してしまっているからだ。読者は「逃れられようのない状況」に追い込まれ、死ぬことになる被害者の気持ちを、強制的に追体験させられる事になる。何気ない日常から恐怖のどん底へ。瞬間的恐怖から、人間性が崩壊するような持続的恐怖へ。わずかな希望と訪れる絶望。何度となく続く臨死体験に、読者は皆、気持ちの悪い汗を掻くことになるだろう。
また、繰り返される作中の視点の変更は、「傾倒する心」を打ち砕く。被害者の心理、警官の心理、加害者の心理、加害者の家族の心理、メディア側の人間の心理。読者が感情を移入する度に、それを見事に打ち砕き、貴方の中の「正しさ」を危うい物にするだろう。
恐るべき緻密さで描かれる、あまりに救いのない犯罪のクロニクルは、フィクションであるはずの本作にノンフィクションと同等の迫力を与えている。タイトルの「模倣犯」の意味に気づいたとき、読者はその練り込まれた構成に全身の毛を逆立てて絶句し、溜め込んだ陰鬱からの解放に胸をなで下ろすだろう。間違いなく宮部みゆきの最高傑作である。
ブレイブストーリーを鼻で笑った読者は、本作の完成度に打ちのめされるだろう。
文句なし。100点
■追記 本作品タイトルがなぜ「模倣犯」の意味が分からず、この作品の魅力が理解できないからと、web検索してこのサイトにたどり着く人が多い。大変蛇足だが、以下のネタバレ内にその理由を書く。 ただし、本作を読む前にこの内容を読むと作品の魅力を100%スポイルしてしまうので、未読の方は絶対読まないように。google検索結果から間違って読んでしまわないよう、重要な箇所には間に★と☆をちりばめておく。読むときはそれらを飛ばして読むか、テキストエディタ上で検索削除して読んで欲しい。 ←前の記事 次の記事→ Copyright barista 2010 - All rights reserved. |