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ゴールデンスランバー A MEMORY

作者:伊坂幸太郎/ 原作:/ 84点
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■伊坂幸太郎らしさの折り詰め+α

 

ゴールデンスランバーは2008年本屋大賞、第21回山本周五郎賞を受賞し、その後映画化された、伊坂幸太郎の代表作の一つである。多くの批評サイトで触れられているとおり、伊坂幸太郎の「らしさ」を多分に含んだ作品であり、集大成的な作品である...ともいえる。なんで素直に他所の「集大成」という評価を認めないかというと、「魔王」のような社会批判的部分や、「陽気なギャング...」のような登場人物の「語り」、「ラッシュライフ」のような登場人物同士のつながりの部分などは引き継いでいるが、「オーデュボンの祈り」のようなファンタジ的要素はあまり引き継いでいないから。さらに言えば、本作品では伊坂氏は「小説ぐらいスッキリしたい」というこれまでのスタンスを覆し、「モヤモヤした現実の嫌な部分」をあえて盛り込んだとの事なので、なんだか「集大成」という言葉だけでくくるのはどうかという気がするのだ。

 

以下、ネタバレ少なめで説明をしますが、先入観無しに読みたい人はここでブレーキ。

 

主人公である青柳雅春は、元配達員。暴漢に襲われていたアイドルをたまたま助けた事があり、ちょっとしたヒーローとなった経験を持つ以外は、いたって平凡な青年だ。そんな彼はある日、総理大臣暗殺の犯人として指名手配されることになる。

 

以下ややネタバレ

タイトルのゴールデンスランバーはビートルズの名曲の一つだ。物語中でそれは、「必死につなぎ止めようとする行為」の象徴として登場する。彼は様々な「つながり」を頼りに七転八倒しながら逃げ回る事になるのだ。

 

大胆な物語構造である画ゆえに、ご都合主義な展開のオンパレードではあるものの、次々とめまぐるしく変わる局面は読者を退屈させない。スタンダードで無駄に長い作品に飽き飽きしている人は、本作品にどきどきさせられるだろう。一方、ミステリ的思考でしか本作品を読めない人は不幸にも拒絶反応を起こすかもしれない。自分は幸運な事に9割は好意的に読むことが出来た。序盤を読んで「冤罪物の社会派小説か?」と心配したが、そういう真面目路線ではなく、作品性重視なので安心していただきたい。

途中で登場する独特の台詞回しや、感動的な一文は実に見事。作家をほめるのに作家を引用するのが愚なのは承知しているが(そしてそういいながら頻繁に彼を引用するが)、村上春樹的な不思議な牽引力のある文体だと思う。