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オーダーメイド殺人クラブ

作者:辻村深月/ 原作:/ 96点

■思春期の少年少女の心を鮮やかに描いた名作

 

幼稚園や小学校に通っている頃。子供にとっての世界は非常に狭い。頭が良いって称号は、クラスの中でせいぜい上位1割に入っていれば簡単に得られることができる、1/10程度のの称号だ。なので評価対象を広げてしまえば、頭が良いとか、運動神経が良いとか、可愛いとか、手先が器用だとか、何かのジャンルで一番になれる可能性は非常に高い。

ところが中学に入った頃から突然世界は広くなる。学校の人数は多くなり、期末試験の成績は200人とか300人の中で競われる。受験というキーワードが登場すると同時に、県内の同い年すべてがライバルとして認識されることとなってしまう。そうやっていつの間にか、日本の中の、或いは世界の中の自分というものを相対的に評価するようになった時に目前に現れるのは、あまりにも自分がちっぽけな存在であるという事実である。

自らのちっぽけさに気づいた結果、それを自己研鑚といったプラスの方向に役立てることができる人間は少ない。その上、自己研鑚をした結果、より一層自分の上限をリアルに認識してしまい、ヤル気をなくしてしまう者も多い。

 

そんなわけで、中高生ってのは、自らを何とかして「特別なもの」にしたくて、苦しんでいる生き物である。その結果「誰もやったことのない犯罪をやろう」などと殺人事件を起こす者も少なくはない。

本作品の主人公は自らの死でオリジナリティを演出しようと考えた少女である、彼女は自らがいかに美しく、印象的で、風化しないやり方で殺されられるかを、協力者である少年とともに綿密に計画する。これが本作品のタイトルが「オーダーメイド殺人クラブ」とされている所以である。

 

この辺りの少女の心の動きが非常に見事。実際にここまで具体的な行動に出る人は少ないと思うが、誰しも若い頃に「自分がどんなふうに死んだら、みんなに悲しんでもらえるか」など、理想的な死に方をシミュレーションしたことはあるだろう。正直この辺りの描写だけで、これは面白いなと確信してしまった。

「いやはや、いつもながらこの辺りの少年少女の心の動きの描写をやらせると湊かなえはうまいなぁ」と思って読んでいたのだが、よくよく考えたら、これ辻村深月だった。それぐらいに雰囲気が似ている。少女告白が好きだった人は確実に好きな作品だおともう。

その上で、本作品は湊かなえ作品よりも圧倒的に読後感が良い。その辺りは辻村深月らしい良さが出ていて、さすがは直木賞作家だなぁと感心してしまった。

 

そんなわけで、辻村深月ファンにも、湊かなえファンにも、文学好きにも広くおすすめの作品。多少残酷な表現が登場することもあるけど、タイトルから連想されるような、猟奇連続殺人事件者などではないので安心して手にとっていただきたい。逆にミステリを想像して読むと肩透かしを食らうので注意。