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終末のフール

作者:伊坂幸太郎/ 原作:/ 83点
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■もし余命告知が世界中の人に同時に行われたとしたら

 

8年後に地球に小惑星が衝突し、世界が滅亡する。そんな報道が世界中に流れた。最初は半信半疑だった人々も、次第にその事実を受け入れ、結果として世界はパニックとなった。本作品の舞台は、そんなパニックも小康状態となった、報道から5年つまり世界の滅亡まで後三年の世界である。

 

以下、物語の方向性について触れます。ネタバレに厳しい方は読まないほうが良いかも。

 

では物語はどういう方向に進むのか。何とかして助かる道を模索した人類は、襲い来る小惑星を破壊すべく、決死の隊員たちを組織し、宇宙船で小惑星に向かい、爆弾を仕掛ける。バックミュージックとして「どわな くろー ま あーいず♪…」ってのが流れて...なんて展開には全くならない。基本的には世界は滅亡前提である。

するとどうなるかというと、最初のご年間はともかく、落ち着いた状態の描写はパニック映画のそれではなく、不治の病を扱った映画のそれになっているのだ。人々は余名3年という事実を突きつけられたまま生きている。これは癌の宣告を受けた状態に近い。全ての人間に余命が明確につきつけられた時に、人はどの様に生きるのかってのが、本作品の楽しみ方となる。

 

一見すると酷い設定の物語のようにも思えるが、ちょっと待って欲しい。人は凡そ80年。長い人でも精々100年程度で死ぬ。長そうに思えるが、地球の歴史から観たらまぁ、ゴミみたいに一瞬で死ぬ運命なのだ。にも関わらず、多くの人間はその事実を忘れている。或いは知りながらも、目を背けながら生きている。その事実を直視しながら、まっすぐに生きている人というのは意外に少ないのだ。

 

そういった観点でこの作品を読むと、パニック映画的アプローチとはまた意味が違ってくるはずである。ゆるくつながった短篇集の形となっているため、以下それぞれについて簡単に解説。

 

【終末のフール】

家族の問題を描いた作品。ちょっと印象が薄かった。まぁ、世界設定の説明用だという認識。

 

【太陽のシール】

ずっと子供が出来なかった夫婦の間に、今頃になって妊娠が発覚した。当然、あと3年で世界が滅亡するのに産むべきなのかと二人は悩むこととなる。自らの死ではなく子供が生きられない世の中という切り口は、他の物語とは毛色が異なり、2作目にして一番インパクトは強かった。

 

【籠城のビール】

報道のせいで身内を失った男が、元報道マンの家に復讐に向かう話。しかし彼はとんでもない肩透かしを食らうことになる。「精一杯生きることは権利ではなく義務」って趣旨のセリフは凄いなと感じた。

 

【冬眠のガール】

残された時間を死んだ父の書斎の本を読みつくすことに使う少女の物語。誰かと本を共有することは、人生の一部を共有することでもある。しかし、それだけでは駄目なのだ。

 

【鋼鉄のウール】

キックボクシングのジムの話。「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか」というセリフにこの本全部の答えが集約されているように思う。明日癌の宣告を受けても、今までと同じ生活を続けたいと思えるような人生を歩んでいたら、それが本当の幸せだと思う。ジョブズのセリフの逆アプローチとも言える。

 

【天体のヨール】

落下してくる小惑星に、天体ファンが大興奮というちょっと意外な切り口の話。「みんなが真に受けたから落ちることになったんじゃないの?」ってセリフは秀逸。そのうちどっかに公表するつもりで僕が書いた数ページの作品でも同じ切り口を使っているけど、死ぬか死なないかで死ぬに賭ける意味は無い。当たっても当たったと認識できないからだ。

 

【演劇のオール】

演劇を目指していた少女が、演じる事で人々をを助ける話。どこかで読んだことのある展開だけど結構好きかも。

 

【深海のボール】

最後の悪あがきのお話。と、まとめて良いのかな…(笑)。人ってできる事をやるしか無いように思うのだ。たとえそれが無意味に思えることだとしても。