少林少女
作者:本広克行/ 原作:/ 3点
■表面だけ真似ても駄目
少林少女はマルチタレントな女優である柴咲コウを主役に、最近邦画界では名悪役と化しつつある仲村トオルを敵役に、脇役には少林サッカーにも登場していた二人や、アクションでもコメディでも活躍が期待できる岡村隆史を起用して撮影された、痛快格闘コメディ映画...を目指して第失敗した作品である。このメンツで正視に耐えないぐらいに面白く無い作品が作れるのだから、これはちょっとした才能である。駄作だと方々で叩かれていたけど、まぁ、楽しれれば良いのではと借りてみたら、どこにも楽しさが見いだせないという鉄壁の守り。もう既に書くべきことは書いてしまった気がするが、じゃあなにが気に入らなかったかってのをもうちょっと書こうと思う。
結論から言えば、とにかく脚本の出来が悪いの一言に尽きる。
以下、ネタバレかつ本広監督ファンには許せないような表現が多発すると思うので、読みたくない人はクリック禁止。
ネタバレ1
まず根本的に主人公の設定がうまく生かせていない。格闘家に心の問題ってのはもう定番中の定番で、いくらでもお手本になりそうな漫画は転がっているのに本作品ではどんな生かし方もできていない。主人公はあまりに「気」が強すぎるため、悪に転がっちゃう可能性が、って有りがちな設定なのだが、それを「少林拳とは戦うためのものではない」なんていう意味不明な標語でフォローしちゃったがゆえに、格闘映画なのに格闘が見せ場にならないという、くだらなねぇ展開が最初に完成してしまった。何だこりゃ。
戦い全否定なので、ラクロスパートの友情云々も、修行に関係するとは思えない。わざわざ大学へ編入という意味不明な設定もわけがわからん。入学許可がある状態で戻って来られるような脚本にしとけばよいだけじゃないの?悟空効果を出したかったんだろうけど、序盤の柴咲コウの役柄が単なるアホなので見ていて苛々するばかり。天然の可愛さとアホの鬱陶しさの区別がつかないのか、監督は。
そして本作品はスポ根としても失敗している。「技術はすごいけど協調性がない」→嫌われる→協調性を得る→仲間と認めてもらうってのをやろうとしたんだろうけど、根本的に編入した赤の他人だわ、出会って直ぐに試合に出て失敗しただけだわ、他のメンバは真剣にチームワークを語るほどまじめにラクロスをやってない設定だわ、そもそも協調性だけじゃなくシュートが一本も入ってないことから分かる通り、柴崎はラクロスの技術もない。だから全くもってこのシークエンスには意味が無い。
普通のアニメなら、上手いし圧倒的に勝つけど、みんなパスが回ってこなくて面白くないわ、怪我だらけで嫌われる、ってあたりがノーマル。普通と違うことをしたかったのだろうけど、普通以下のことをやって何の意味があるのか全く理解できない。
それにラクロスはその後の展開にも全く関係がない。関係があるっぽくしている点はあるけど、しょうもないので説明も割愛。
で、ボスが彼女を狙う理由もショボイ。強い奴と戦いたいだけだそうな。で、本人からケンカを売ったりするコットすら無く、部下がちょっぴり戦いを仕掛けた時に逃げたら「戦う気がないなら大事なものを全部壊せ」と命令を出し、で、戦いに来たのに部下に戦わせる。お前が戦いたいのなら、無傷の状態で戦えよ。なに部下を先にぶつけてんの。
で、いざ戦いだしたら闇の力が云々とか、脈絡なく語り始める。どこかのゲームとかオタクアニメで観たから使ってみたいセリフだったんだろうけど、そういう作品にはちゃんと闇に足を踏み入れることで能力が得られる代わりに...みたいな設定が準備されていて、前フリがあるからこそ有効なわけで。正直「格好いい悪役のセリフやポーズ」を真似してみたい中二病のオタクの日常会話を聞いているみたいで、びっしり鳥肌が立った。
で、最後は本人がエヴァオタクを辞任している通り、TV版エヴァの最終回をパクった展開。こんな低レベルな劣化コピーはオマージュとすら呼べない。そもそもエヴァのアレが成り立つのはそれまでに凄まじい展開を見てきたからこそ効く、一流の肩透かしなのだ。肩透かしの作品のエンディングにアレを持ってきたって、チェンジアップしか投げないピッチャーみたいなものだ。それは単に球が遅いだけだろう。
それから、根本的にあの金儲け主義の大学っていう設定が、作品の中に全く生きてない。もうどこを直せとツッコミ難いぐらいに全体的にダメダメだ。
とまぁ、ネタバレ内に書いたように、脚本に褒めるべき点はゼロ。言いたいことは他にも山のようにあるのだが、時間をかけて説明するようなジャンルのものではないので割愛。「ここが欠点」じゃなく「全体的に良い所がない」のである。
その他映像も実につまらない。格闘映画なのに格闘が軽い。ワイヤーで派手にすっ飛ぶのは構わないけど、他の技も全部何もかもが軽い。ちっとも戦っているように見えない。こんなんだったら、俳優なしで全員CGでもいいじゃないか。
しかもそこまで現実味がないのにめちゃくちゃ地味なのだ。現実味がないなら非現実的な速度で動いたり物を破壊して回って、カンフー・ハッスルみたいにしてしまえばいいのに、効果がうまく使えているのは少林サッカーの二人が登場したシーンだけ。しかもそれ以降の戦いはどこの子供のケンカかというぐらいにグダグダ。
挙句、CGを使ったと思えば光の線とかを書くばかりで実際にからだは動かない。早回しでもなんでもいいから手足を動かさないと格闘映画じゃないってば。顔の表情と適当な光でごまかすって戦闘描写は典型的な、安いジャパニメーションの安い戦闘シーンの特徴である。アニメファンを自称するのは自由だが、あんな安い表現を採用して押井ファンや庵野ファンを名乗るのは辞めていただきたい。
本広監督って名前はよく聞くけど誰だっけ、と思って調べたら、「踊る大捜査線」や「西洋骨董洋菓子店」の監督だった。あれれ、テレビは面白かったのになぁという感じ。多分この監督、非現実的なものを描くセンスはないのではないかなぁ。或いは映画っぽさを出すのが苦手?とりあえず、ちょっと意外だった。
んなわけで、脚本が酷い上に、主人公が格闘技の素人という、困った作品。これを観た後だと、ハイキック・ガール!は結構まともだったなぁ。ラジー賞まっしぐらのC級作品。
Copyright barista 2010 - All rights reserved.