ハイキック・ガール!
監督:西 冬彦/ 原作:/ 10点
食材というのは料理人次第で美味しくも不味くもなる。安い食材を美味しく調理することは大変だが、高い食材を不味く調理することは容易い。調理方法、組み合わせ、味付け、何を失敗しても不味くなりうる。この映画は後者の代表のような作品だ。
本作品は「マッハ」など本気の格闘映画で有名なピンゲーオ監督作品にあこがれた西監督が、「日本にも本物の格闘映画を!」と一念発起し作成した作品である。ただ、素晴らしいのは意気込みだけだった。
まずオープニングから眠い。解像度の低い無意味な空撮映像にしょっぱなから萎える。映像が汚いのは低予算映画だから仕方がないにしても、構成が拙過ぎる。格闘を見せる映画なのだから、主人公・土屋圭の練習風景でよかったのではないか?
しかしまぁ、芸術映画ではないからと本編に期待したら、本編の編集も酷い。格闘シーンは全て通常速度で一度見せてからスローモーションでリピート、あるいはその逆で構成されている。何かの教則ビデオかと思った。スローモーションを全部削ったら1時間で終わるんじゃないのか?この映画。とにかく全体的に編集が酷すぎる。
師匠大活躍シーンも、ぶつ切りが酷い。一人倒すごとに映像を切りながら、直線的に歩いて1対1の繰り返し。ファンなんだったら、トムヤムクンのあの超絶ノンストップ格闘を見習ってほしかったものだ。
<以下全面的にネタバレ爆発なので、この映画を未見の方はここまで。あと、この映画を絶賛している人は読まないほうが良いかも。好みは人それぞれなので...。>
ネタバレ1
さらに脚本が酷い。以下に大まかなフローを記す。
・ハイキックガール オープニング
・壊し屋(悪い人たち)が事件を起こしてるシーン。
・土屋圭が黒帯狩り(師匠に認められたいという前振りシーンは無い)
・師匠に「黒帯狩りをやってることを「軽く」注意される」
・師匠に型の練習をやらされる
・壊し屋が強いやつを募集している情報get
・入団試験で見ず知らずの連中をボコる(相手も壊し屋だが)
・壊し屋のボスは師匠を仇と見ているってのを知る
・修行中の師匠に知らせにいく
・つかまる
・師匠が助けに行く
・土屋圭が必死で一人倒す間に師匠が全員倒す
・ハイキック師匠 完
とにかく黒帯狩りまでして「師匠に認められたい!」という、土屋圭の心がちゃんと描かれてないから、身勝手女に感情移入不能。ストーリーに山も谷もない。しかしまぁ、最後に主人公の物凄い戦いが見られるなら良いやと我慢してみていたら、師匠大活躍で主役放置。悪い意味でため息が出た。
そもそも、主人公が黒帯狩りをやってるのに気づいても、窘める程度で破門にすらしない師匠もどうかしている。そんな事だから主人公はおろか、他の誰にも感情移入できず、赤の他人の視点で映画を見る羽目になる。脚本に褒めるべき点は一つも無い。
できるかぎり原作の設定を残して脚本を再構成するならこんな感じだろう。
・練習風景から開始
・黒帯の集団の中に茶帯がの女子が一人
・土屋圭は女子なのに男子も含む部内の組み手で無敵
・一番強いのに黒帯をくれない師匠に不満
・才能で戦うだけで型を学ばない事が問題だと指摘される
・何故なら空手は「後の先」。守りあっての攻撃には型が大切
・攻撃は最大の防御だから先に攻めた方が強いと反発
・黒帯狩りをして腕試し。負け無し。
・師匠にばれ、あせるが、開き直って狩った黒帯の山を見せる。
・認められるどころか師匠に破門される
・壊し屋のうわさを聞く
・正義の見方気取り&開き直りで雑魚を何人か倒す。
・守りが充分でなく怪我が絶えない
・とうとう幹部が出てきてボコボコにされる
・師匠に助けられる
・助けたときに壊し屋のボスに師匠の存在がばれる
・実はボスは師匠に恨みを持っていた
・反省して型の修行シーンとか
・しばらく平和な映像をキープ
・師匠襲われる。しかしほぼ返り討ち
・主人公、ボスに襲われる
・戦いの中で帯がほどける
・主人公ピンチ
・師匠主人公を守って大怪我
・空手は守るための云々...との臭い台詞
・師匠の帯をもらって締める。つまり初めての黒帯。
・主人公、ボスと対決
・圧倒的手数で攻められるが型でさばききる
・徐々にカウンターを奪い始める
・最後の一撃は当然ハイキック
んなところだろう。めでたくジャッキー・チェンの映画よろしく、なんのひねりもない映画の完成だ。しかし、その方が楽なんじゃないのかなぁ。格闘シーンをメインに見せる邪魔にならないから。
で、編集は決め技以外のスローモーションをばっさり削除。そういうのは映像特典かエンディングをメイキングにしてお見せすればよろしい。
そんなわけで、このチャレンジャブルな映画。点数をつけるなら....10点。「チョコレートファイターとほぼ同時期の公開で不運だなぁ」などと思っていたが、そもそも勝負になってない。同じ格闘家を使ってピンゲーオ監督に取らせたら100倍良い映画を作るだろう。本作を映画として評価するわけにはいかないが、試みとしては素晴らしいので、ぜひ次回こそは頑張って欲しい。彼女の格闘の才能と、監督の情熱には期待しているので。
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