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水底フェスタ

作者:辻村深月/ 原作:/ 73点
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価格:1,500円(税込、送料別)

■八墓村の怖さを備えた恋愛小説

 

水底フェスタはとある過疎地の村を舞台とした、青春小説…的な何かである。過疎地の村を舞台とした作品ってのは、「蜜姫村」「八墓村」「屍鬼」など多々あれど、まぁ、何らかの意味で怖くなることは間違いない。ここ最近読んだ中で怖くならなかった過疎地の作品といえは、「神去なあなあ日常」ぐらいだ。本作もその例に漏れず、怖い。お化けとかそういう非科学的なものは一切でないのだが、むしろそういう作品より怖いと感じた。

 

本作品の主人公は湧谷広海という高校生の少年だ。広海は睦ッ代村の村長の息子であり、そこそこイケてるやつで、同級生でかなり美人の門音に一方的に追いかけられているにもかかわらず、それを適当にあしらっている。彼は音楽が大好きで、彼の村で開かれる巨大な音楽フェスタであるムツシロックを愛している。フェスタは田舎で過ごす彼にとって非日常、すなわち村の外の世界の象徴であり、くだらない日常を持ち込んでフェスタの雰囲気を壊すような奴はいわば「粋のわからない奴」として蔑んでいる。

とまぁ、ここまで読むと、「なんでも恵まれているちょっと斜に構えた主人公が、危険な恋をしたり、やっぱり幼馴染に惹かれたりする、典型的な「男子にしか受け入れられない青春小説」に到達しそうに見える。ところがそうはならない。

 

以下、物語の大筋について若干のネタバレを含みます。ネタバレに厳しい人は注意。

 

主人公はムツシロックの最中に芸能人の織場由貴美を見かける。彼女はモデル上がりの女優で、そして睦ッ代村村の出身だった。その場面はただ見かけたというそれだけエピソードで終わる。しかしその後、何と後日彼女は村に帰ってきた。既に彼女の唯一の肉親であった母が他界し、実家には誰にもいないにも関わらず、だ。

そして彼女はなぜか主人公の広海に急接近し、そこから物語は思いもよらない方向へと展開し続けるのだ。

 

以下、物語の大きな構造に関する若干のネタバレ。

 

んなわけで、やってることは基本的に人間関係を描いた青春小説なのに、流れる空気は八墓村という、怖い作品。辻村深月の書く作品のうち、爽やかな方が好きな人には向きません。怖いほうが好きな人にはお薦めです。