蜜姫村作者:乾 ルカ/ 原作:/ 68点
■恐怖と不滅の愛のマリアージュ
蜜姫村は八墓村的構造のホラー作品である。とか偉そうに書いてみたが八墓村を読んだことがない。要はやたら田舎に行ったらとんでもない目に合うぞという作品だ。
最初の語り部はある夫婦の奥さんである。昆虫大好きなファーブルっぽい旦那は、昔珍しい昆虫を見つけて追跡した際に、遭難しかかった事がある。彼は学者としてその昆虫の調査をするために、1年間その村に滞在することにし、医者であった妻は1年間地域医療に貢献すれば将来の糧になるだろうと、旦那に同行してきたのだった。 村の人々はみんなとても親切な人達だったが、彼女が自分が医者であることを告げると、非常にそっけない返答してしてくれない。多くの田舎がそうであるように、老人の割合が多い村であるため、彼女は無料で健康診断をさせて下さいと頼むだが、「医者はほんとうに必要がないんだ」と物凄い剣幕で断られてしまう。これらのやり取りで違和感を感じる女だったが、旦那になだめられ、なんとか日常が始まる。しかしある日、言ってはいけないという場所へ立ち入ってしまった旦那は二度と帰って来なかった。それをきっかけに物語はどんどん恐ろしい方向へと展開していく。
この手の物語が何故田舎を舞台にして描かれるかというと、陸の孤島である怖さが演出できるというのが大きな理由の一つ。都会だと怖さが半減するだろう。そしてもう一つは、田舎には都会にない常識があると思われている点が便利だからだ。神去なあなあ日常のレビューの際にも書いたが、田舎には独特の常識がある。なので物語の主人公たちがちょっと違和感を感じても「この地方では常識が違うのかも」って事で、問題を受け入れてしまい、取り返しがつかなくなる展開に便利なのだ。
ただねぇ、どうにもこの辺りの冒頭の展開に不自然さというか、ご都合主義を感じてしまう。まず行っちゃ駄目だって言われた場所にあっさり行っちゃう軽率な旦那の行動にリアリティがない。そういうのはハリウッド映画の食いしん坊のぽっちゃりソバカス(10歳)がやることであって、真っ当な大人はやらん。そもそも生態学をやっている設定なのに生息環境の検討もせずに、「みんなが隠してるからいそう」って、何を言っているのかと。ファーブル=何も考えていないと思ったら大間違いである(生態学で修士を取った身として熱く語ってみた)。 まぁでもその辺りまでは「軽率なバカ旦那め」ぐらいで住んだのだが、その後の嫁の行動が馬鹿すぎる。以下、そろそろネタバレ内に隠します。
とまぁ何だか「無理やり逃げられない展開に持っていった感」が満載で、ちょっとこの辺りの展開にはうーん、って感じだった。まぁ、嵐で一本しかない橋が落ちただけじゃ長期滞在を強制できない故の苦肉の策なんだろうけどさ。
ただ、その後の展開はなかなか面白かった。正直、物語の展開はタイトルや冒頭の描き方で9割がた読めてしまった。しかし、それを3世代にわたって描くことによって、過去の話と結びつき、非常に効果的なエンディングにつながっていると思う。最後の行動は契約に縛られたものに見える。しかしその制約を守らせたのは代を重ねても消えなかった愛なのかも知れない。とにかく「壮絶だな」と感じた。 Copyright barista 2010 - All rights reserved. |