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フライ、ダディ、フライ

作者:金城一紀/ 原作:/ 68点

■志村!うしろうしろ!

 

少年漫画にはいわゆる王道展開と言われるものがあって、その内の1つに「いじめられっ子が格闘技を学ぶパターン」ってのがある。例を挙げると「はじめの一歩」とか「破壊王ノリタカ!」とか「史上最強の弟子ケンイチ」とか「ベスト・キッド」とかそういう奴だ。…って、のは少年漫画じゃないな…。

これらの作品のストーリーは、いじめられっ子が何らかの理由で強くなることを目指し、格闘技と出会い、師匠と呼べるような人間のもとで修行し、強くなって目的を達成するという非常に単純なものである。そして大抵の場合、体を鍛えただけでは強くはなれなくて、心の強さを鍛えるエピソードが中盤に訪れる。たしかにその通りではあるけれど、「暴力で物事を解決する」という冷静に考えると怒られそうな事実から読者の目をそらし、いい話に仕立て上げる意味も持っているように思う。

 

以下、大まかなストーリー展開に触れます。ネタバレに厳しい人は注意。てか、ストーリー展開が単純なのでその...。

 

さて、本作品「フライ、ダディ、フライ」は上述したような展開を見事にキッチリ踏襲した少年漫画的な小説作品である。ただ唯一違うのは、主人公が壮年期のオッサンだという点である。

本作品の主人公は既婚で高校生の娘がいて、仕事を真面目にこなしてそこそこ出世した、一般的なオジサンである。名前は「鈴木一」。平凡すぎて寧ろいなさそうなぐらいに平凡な名前の男だ。

そんな鈴木一がある日家に帰ると、妻も娘もおらず、家は真っ暗だった。置き手紙を読むと、娘が怪我をして病院に運ばれたという。慌てて病院に向かうと、娘は顔を酷く殴られたらしく包帯まみれになっていた。そしてそこには不審な教師と思しき人間が二人おり、適当な理由を聞かされ、大事にしないようにと言い含められてしまうのだった。

 

この後、どのようにして修行モードに入るのかは、実際に読んでいただくとして、結果として鈴木一はとあるとても意外な立場の人間に、戦い方を教わることとなり、修業の日々が始まる。

正直修行内容は思いの外にゆるいし、そんな程度で本当に勝てるのかよと疑問になる。漫画より漫画的にご都合主義で、物語は着々と前に進む。にも関わらず、読んでいてイライラしないのは、恐らく作者のオッサンへの愛情がにじみだしているからだろうなぁと感じた。

 

以下、ネタバレあり

 

とまぁ、ネタバレ内のような事実を踏まえ、世の中の弱り切った父ちゃんたちは、一度この本を読んで奮起してもらえばと思う。ただ、カラダを鍛えるのはいいけど、出来れば殴りあいとかじゃなくて、別のことにエネルギーを発揮した方が良いけど。