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神去なあなあ日常

作者:三浦しをん/ 原作:/ 94点
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■林業の世界を描いた傑作

 

「神去なあなあ日常」は自分の意志とは無関係に三重県の片田舎に連れ去られて、林業に携わることになった少年の物語である。主人公の「」は典型的なヤル気のない大学生で、将来の目的も定まらず、就職活動すらしていなかった。そんな彼のキャラクタを熟知した両親は、学校の教師と結託して彼を三重の片田舎に住み込みで働かせるよう手配してしまったのだ。

 

本作品はかなり好み。冷静に考えればヤル気のない少年が、頑張ってる田舎の人々を見てちょっぴりオトナになるという、単なる少年の成長物語なんだけど、何故か抜群に面白い。なんでだろうと考えたのだが、究極的には「作家の才能が凄いのだろう」としか言いようがない。え、レビューになってない?

 

既に上述の通りギブアップをしたわけだが、その上であえてもう少し細かい分析をしてみよう。敗戦処理というやつだ。

まず本作の魅力の一つと言えば舞台設定だろう。先日「仏果を得ず」のレビューにて散々語った事だが、「理解しがたい未知の職業等々」を読者に分かりやすく説明する、このハードルを乗り越えた作品というのは大体面白い。本作品の場合は「林業」というとてつもなく理解しがたい職業を取り扱っているので、その条件にバッチリ当てはまる。こんな事を書くと「えー、林業って木を切り出して販売するだけでしょ。どこが理解しがたいの?」という声が聞こえそうだが、林業の本質は出荷フェーズにあらず。

さっき語った「仏果を得ず」では、「長生きしないと頂点に届かない」という世界を描いている点が面白いと説明した。しかし林業の場合、ある人間が努力して育てた木が本当に素晴らしい商品になるかどうかなんて、自分では確認できないのである。いわゆる銘木と呼ばれるような巨大な樹の成長には、100年どころか200年も300年もかかる。つまり「頑張りが報われるかどうか確認しようがない」という職業なのだ。これはかなりレアな職業だと思う。

その上、林業を営むような地域と言えば超ド田舎。田舎の「普通」ってのは、都会人には信じられないようなレギュレーションである。本作品でも科学と迷信の決着がまだまだついていないような、田舎特有の空気が存分に描かれている。その結果、林業×田舎で非常に馴染みのない世界を作り出すことに成功しているのだ。

また、物語はあんまり進まない。タイトルの「なあなあ」ってのは、「適当に」とか「程々に」とか「そのうちに」とか「気にすんな」なんていう意味の言葉であるが(品詞は不明だ。奥様の実家の方言もそうだが、方言の品詞はしばしば明確でない)、劇中の様々な状況も、ほんのりしか進展しない。ところが、それでいながらそれぞれのエピソードは非常にテンポよく描かれており、ページを捲る手が止まらない。結果、読後感は超スッキリである。

 

んなわけで、個人的にはかなりおすすめの作品。中高生にもお薦めです。仕事が無いといいながら仕事を選びまくってニートをやってる人たちにもぜひ読んでもらいたい作品だ。

 

おまけ:

そういや本作品には未成年の飲酒シーンがガッツリ出てくる。本作品を中高生に進めると、また口うるさい団体が文句言うんだろうなぁ。本作の場合、その辺がなあなあなのも含めて田舎の正しい描写だと思っているのだが。スカイクロラに禁煙団体が文句つけた事件なんて、スカイクロラの世界観が理解できていないとしか思えなかったし、ドラマ化とかだと割愛されてそうでちょっと嫌だ。その辺の判定もなあなあにしていただきたいと常々思う。

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