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一瞬の風になれ

作者:佐藤多佳子/ 原作:/ 86点
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■陸上部員の姿を描いた青春小説

 

「一瞬の風になれ」は陸上部員達の姿を描いた青春スポ根小説である。主人公の新二はその名の通り次男坊。長男の健一は天才的なサッカー選手だ。どれぐらいのレベルかというと、高校を卒業して直ぐにJリーグに入ってしまったぐらい。従って弟の新二も兄に憧れ、子供の頃からずっとサッカーを続けていた。

しかし、新二のサッカーの才能はそう大したものではなかった。体育の授業で一班の生徒とゲームをすればラクラクとゴールを奪ってみせ、一般人とサッカー部員の差を見せつけるが、実際の試合においては華々しい結果を残すことが出来ない。

そんな自分に嫌気が差した進二は、兄や両親の機体を裏切り、サッカー部が強いわけではない普通の公立高校に入学することとなった。そしてひょんな事から、幼馴染の天才陸上短距離選手「連」と一緒に陸上部に入部することとなるのだった。

 

うん。これ面白い。読み始めは進二視点で描かれる都合上、日本語がやんちゃな感じで読みづらいなぁと感じていたのだが、物語が進むに連れてグイグイと引っ張り込まれてしまった。最近読んだ作品の中ではDIVE!!に一番近いけど、個人的にはこっちのほうが好きかも。

 

正直この物語の基本的構造はめちゃくちゃありきたりである。「あるスポーツに挫折した男が別のスポーツに挑戦して活躍する」って設定は「才能はあるけど努力したことない奴が努力して一気に伸びる」や「才能のない男が努力で才能を打ち破って『努力という才能が云々』」ってパターンと並び、3大スポ根の王道に認定してもいいぐらいにありきたりな展開である。

じゃぁ何でこんなに面白いのかというと、それは多分この徹底した練習の描写のせいじゃないかと思う。

例えば先程よく似た作品として挙げたDIVE!!でも練習のシーンは描かれる。ダイビングの怖さ、痛さ、どんな身体能力の人がどんな技を目指して練習するのかなど、かなり詳細に描かれている。でもDIVE!!を読むと高飛び込みが上手くなるかというと、それは絶対にありえない。

一方この「一瞬の風になれ」を読んで、同じ練習をすると、確実に足が速くなる。この作品の練習シーンは俯瞰では描かれない。常に選手の目線で描かれ、具体的な問題に対し、具体的な理想形が示され、そこにたどり着くための具体的な練習方法がひたすらに書き綴られている。

 

以前にもしドラの批評をした際に、「具体的イノベーションが提示されている事がある種のリアリティを生んでいる」的な感想を書いたと思う。本作品の場合はその逆で、とんでもないイノベーションではなく、王道的練習内容とその練習量の描写を何度も重ねて描くことによって、物語の説得力を生み出しているのだ。

その結果、競技のジャンルこそ違うといはいえ、バドミントンという競技に明け暮れている僕としてはガッツリ心をつかまれてしまったというわけ。

 

そんなわけでどっちが好みかDIVE!!と読み比べてみると楽しい作品。DIVE!!がマイナースポーツであるがゆえの「アプローチ方法の差での戦い」を見せていたのに対し、本作品があまりにメジャーで研究されつくされたスポーツであるがゆえに、正面突破を図っているという違いがちょうど正反対で面白い。あわせて読むべし。

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