ゴランノスポン作者:町田 康/ 原作:/ 92点
■強烈な個性を放つ短編集
町田康という作家の名前は何度と無く耳にした事があって、なんとなく名前の印象から「古典的な作品を書く60歳前後の作家」というイメージを持っていた。名前で勝手な印象を持つなと起こられそうだけど、例えば、勅使河原彩香とかって名前を見てお嬢様だと思わない人はいないでしょ。それと同じなんで勘弁してください。 で、実際に読んでみてぶっ飛んだ。衝撃的な作風だった。文体は舞城王太郎に似た、ぶっとんだ口語体による一人称によるものであり、内容は筒井康隆を髣髴とさせるような、スラップスティック色の強いもの。勝手な思い込みの性もあって、ガツンと一撃食らった気分になった。
主人公の多くがちょっとイラッとする性格だったりするせいで、読んでいる最中にストレスが溜まることも多いのだが、オチがパワフルでそのイライラを吹っ飛ばしてくれるのが凄い。ただ、全作品カラーが良く似ているため、長く読むと文体疲れする感じはある。自分は結構好きだったけど、嫌いな人は嫌いだろうな、これ。
【楠木正成】 何となく「楠木正成」が口癖になってしまった男が、部屋の中から楠木正成の本を探し始める話。...なのだが、途中でおかしな事になってくる。 筒井康隆に似た作風だなぁと思って読んでいたのだが、作品の方向性まで筒井康隆作の「筒井順慶」に似ている。
【ゴランノスポン】 売れないミュージシャンのメンバの一人が物語の主人公。彼は大金こそ持っていないものの、身の丈にあった生活に満足していて、いつもメンバとともに「最高だぜ!」と酒を酌み交わしている。 ところが、メンバの一人が自殺してしまい、彼は葬式に向かう。そこで彼を待ち受けていたのは...。 ロックな人生とはどういうものかを斜め上から俯瞰した作品。元ミュージシャンならではの切り口だと思う。
【一般の魔力】 自分だけよければそれでよい男の話。彼はちょっぴり身勝手で、多少人に迷惑をかけても、自分に都合がよければそれで良いという観点で行動している。とにかく読んでいてイライラするのだが、何でこんなに腹が立つのかと思ったら、彼のいやな部分って誰もが薄く共有している見苦しい部分なんだよね。自分の悪い部分を見せ付けられているから腹立たしいわけだ。 とはいえ極端に酷い姿にイライラがMaxに達したころに、ガツンと一発オチがやってくる。綺麗にイライラから開放された。うまいなぁ。
【二倍】 とある素晴らしい会社で働く男の話。彼は就職に失敗し、就職難民と化していた時に古い友人に出会い、彼の取り成しにより今の会社に入ることができた。仕事は遣り甲斐があり、彼は自分の立場に満足していたのだが...。
【尻の泉】 ちょっとナルシズムの入った男が、鏡に向かって自分の姿に見とれている。しかし彼のモノローグによると、少し前までの彼はぜんぜん違う姿だったのだという。
【末摘花】 その辺の軽い男の口調で描いた源氏物語。ひでぇなと思うものの、実際に平安の世に生きていればこういう感覚だったんだろうなと納得の出来。
【先生との旅】 とある偉い先生の講演会で講演を持つことになってしまった男。大きな口を叩いたものの何を話して良いか分からず、準備ゼロの状態で当日を迎えるはめに。投げやりな状態で現場に向かい、先生とタクシーに乗り込んだのだが、この先生が思いの外変わり者なのだった。 Copyright barista 2010 - All rights reserved. |