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難民探偵

作者:西尾維新/ 原作:/ 59点
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■西尾維新らしからぬ作品

 

難民探偵はデビュー作こそミステリとして書き上げたものの、その後徐々に吹っ切れて、最終的にはライトノベル作家の代表となってしまった西尾維新の書いた、久しぶりの真っ当なミステリ作品である。ただこれがびっくりするほど真っ当すぎて、全然西尾維新作品っぽくない。

 

本作品の主人公は就職先が見つからずに苦しむ女性、窓居証子である。彼女は別に手を抜いていたわけではなく、ちょっと就職活動の開始が遅れ、ほんの少し高望み気味に就職先を選び、無職で就職浪人するよりは大学を留年すべきとの先生のアドバイスに背を向けただけなのだが、気がつけば肩書き無職・住所不定の女となってしまった。

食うにも困った彼女は方々に手を回し、結果として、変わり者だが有名な小説家の叔父「窓居京樹」の家にお手伝いとして住み込みで働くことになる。仕事らしい仕事のない変化の無い毎日を過ごす証子だったが、ある日、警察にいるという京樹の友人「根深」を京樹の代わりに迎えに行くことになり、そこから彼女はとある事件の調査に巻き込まれるは目になるのだ。

 

ミステリとしての方向性は。宮部みゆきに近い。天才的探偵による非科学的な思いつきによる解決ではなく、警官の地道な調査によって可能性を絞込み、犯人を絞り込んでいくスタイルだ。しかしだからといって退屈でページを捲る手が進まないなんてことにはならない。もともと西尾維新の文章は天才的に読みやすいのだが、本作品はそれがさらに加速した感じで、グイグイ読み進めさせられてしまう。このあたりはさすがだと思う。

しかし、読んでみた感想を結論を言ってしまうと、何だか平凡だなぁという感じ。面白いとか面白くないとか、オチが古いとかそういう意味ではなく、西尾維新らしさが良くも悪くもスポイルされてしまった気がするなぁと。

冒頭から就職氷河期の現代を丁寧に描写していることからも分かる通り、本作品にはいつもの西尾作品にありがちな「セカイ系」のキャラクタたちは登場しない。あくまで現実的な設定で現実的な人物たちが活躍する。京樹や根深は作中で「変わり者」呼ばわりされているが、至って常識人の範疇に入る。そこまでは良いのだが、その後の展開やオチまでも余りにも常識的なように思う。

 

得意のラノベ調を封印してまで書いた今回の試みの方向性も良かったし、結構面白かったけど、西尾氏ならまだこの倍ぐらいは面白くできるはず。今回の路線上での次回作に期待というところかな。