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砂漠

作者:伊坂幸太郎/ 原作:/ 91点
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■人生に燦然と輝くオアシスを描いた作品

 

「砂漠」は伊坂幸太郎による、珍しく真っ向勝負な青春小説である。伊坂幸太郎の絵描く登場人物はいつも大体毒が強くて変わり者の集団だったりするのだが、今回もそういう意味での期待は裏切らない。「ゴールデンスランバー」と同様、マーク・チャップマン的な人物が登場し、これはまたいつものように破滅的な方向に突っ走るのかと思いきや、良い意味で期待を裏切られた。

 

本作品の主人公達は大学生である。そのうちの一人がマーク・チャップマン的でやや変人だったり、ある少女が特殊な能力を持っていたりはするものの、基本的には至って普通の大学生である。彼らは普通に授業に出たり、合コンに行ったり、恋をしたりする。チャップマン的な男も実に愛すべき男で、自分はこの物語で一番魅力的に感じた。

 

彼らは自らの興味の赴くがままに大学生活を楽しんでいるのだが、そのうちちょっとしたきっかけで、悲惨な事件に巻き困るハメになったりする。なったりするのだが、いつもの伊坂作品のように物語が一方向へと転がっては行かない。

そのあたりまで読んで漸く、本作品が有川浩の「キケン」と同様の、真っ向勝負な青春小説であることに気づいた次第である。だって、この人がこんなの書くなんて思わないし。

 

本作品の主張登場人物中、唯一の社会人である鳩麦さんはこう言う。社会は「砂漠」だと。作中の主人公たちは、様々に悩み、一生消えないような傷跡を残したりもした。しかし社会という砂漠に出てから振り返る学生時代というのは、さながらオアシスのように、瑞々しく充実した空間なのだ。

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月刊『ザ・ビートルズ』2006年12月号

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