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風に舞いあがるビニールシート

作者:森 絵都/ 原作:/ 92点
【送料無料】風に舞いあがるビニールシート

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価格:1,470円(税込、送料別)

■限りなく日常に近い非日常

 

自分にとっての森絵都という作家は、「大好きな森博嗣の本を探していて、『お、新刊か!?』と思ったら森絵都だった」という、「森博嗣のお隣さん」的存在だった。しかし毎度毎度見かけていると、ちょっと手を出してみたくなるのが人情。実はかなり面白い作品を書く人だとの噂に初めて読んだのがこの作品だったのだが、実に面白かった。これまでに読んだことのないジャンルの作品だった。と言っても特に突飛な作風というわけではない。

 

舞城王太郎や筒井康隆の作品は、(程度の違いこそあれ)「非日常の中の日常」を描いたものである。彼らの描く世界はどこか異常なのだが、その異常さをベースに、日常の世界を描いていく。一方、栗田有起や森絵都の作品は「日常の中の非日常」を描いたものである。大きく一括りにしたものの、二人の間には大きな隔たりがあって、森絵都の作品は「殆ど日常と見分けがつかない」ところが特徴だと思う。非現実的な設定は存在しないはずなのに、展開や結末はほんの少しだけ予想の斜め上を行く。このズラし加減がすごく気持ち良いのだが、この気持ちよさを言葉にしてここに表現することは難しい。実際に読んで頂くより他に無いと思う。

 

どうしても新しい作家の一冊目は面白く感じてしまうので、この点数が妥当かどうかよく分かんないけど、お薦めです。

 

【器を探して】

素晴らしいスイーツを創り上げることやその類まれなる美貌の一方で、我侭極まりない女社長の元で働く女秘書が、彼女のスイーツの撮影を素晴らしい物にすべく、美濃焼の器を求めて岐阜に向かう作品。あまりに我侭な社長に振り回され、私生活が蔑ろになりという展開は「プラダを着た悪魔」を彷彿させる。当然、仕事と恋人を天秤にかけ、感動的な選択が...と待ち構えていたのだが、最後に来て物語は斜め上へ方向転換。短編1作目にして森絵都という作家が好きになってしまった。

 

【犬の散歩】

殺処分になりそうな犬の命を助けるべく、ボランティア活動に勤しむ女性の話。この一文だけ読むと速攻で「愛情命の視野の狭い女が恋人も作らずに」って展開を想像するのだが、ぜんぜん違う。物語は温かいホームドラマの体をなしながら、想像した場所とは2cmぐらいズレたところに着地して終わる。素敵なバランス感覚だと思う。

 

【守護神】

定時制の学校に通う社会人学生の男が、伝説のレポート代筆士を探し出し、代筆をお願いする話。若干非日常に傾いた作品なのだが、物語は思わぬ方向へ進んで、とても常識的な方向で幕を閉じる。これかなり好き。

 

【鐘の音】

仏像の修復士の話。日常のミステリを描いた作品と分類しても問題なかろう。森博嗣の短編に似た匂いを感じる。

 

【ジェネレーションX】

ある商品に怒り狂うクレーマーの元へ、商品の販売元の社員と、その広告を掲載した雑誌社の社員の二人が謝罪に向かう話。途中で販売元の社員に相当イライラするのだが、最終的にはふたりとも大好きになった。何だかスカッとする作品。サラリーマンにお薦め。

 

【風に舞いあがるビニールシート】

UNHCR(平たく言えば難民などを助けるべく現地での活動を行う機関)で働く男を夫とした女の話。直前に「砂漠」を読んでいたせいで、身近な人間を大切にできない男に共感できず。こういう詭弁使い自体は嫌いじゃないんだけどな。