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天国旅行

作者:三浦しをん/ 原作:/ 79点
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価格:1,470円(税込、送料別)

■良くできてるけど、欲しいのはそれじゃない

 

「天国旅行」は三浦しをんによる「心中」をテーマにした短編作品集である。全部を読んでみて、どれも良くできているなと思ったのだが、どうにもしっくりこない。何がいけないのかなぁと悩んだのだが、多分、自分の「三浦しをん」という作家への期待の方向性によるものだと思う。これが栗田有起とかの作品であれば素直に読めるのだろうけど、自分が三浦しをんに期待しているのはこういうジャンルの作品じゃないのだと思う。

 

そんな非常に個人的な理由で若干評価は低めにしたものの、冷静に読むとどれも中々面白い。以下、各作品ごとの感想。

 

【森の奥】

富士の樹海で自殺しようとした男は、死にそびれた際に若い男に出会う。男は死ぬタイミングを失って何となく若い男と行動を共にすることになるが....。

どんな怖い物語になるのかと、身構えていた割にはちょっと普通な終わり方。本短篇集の中では比較的印象の薄い作品。

 

【遺言】

ある老いた男が妻に残した遺言である。彼らの波乱万丈な人生が暖かい視点で描かれる。いい話だけどちょっとインパクトが弱い。「ありがとうは毎日言わないと意味が無い」という意見もあるしね。

 

【初盆の客】

初盆に現れた若い男が語る、自分の祖父母の真実の話。これがちょっと意外な展開に結びつく。こういう有り得ないけど信じたくなるホラー的構造は結構好み。

 

【君は夜】

夜な夜な江戸時代と思しき時代の夫婦の夢を見る少女の話。この手の物語は大体現実とのクロスオーバー展開が待っているものだが、本作品の場合、ちょっと想像していたのとは違う形の展開となった。ホラー的ではない解釈が成り立つ結末となっている。ただね、個人的にこういうバカ女は好きになれないんだよね。好きじゃないタイプが主人公の物語

だからって受け入れられないわけじゃないけど、でも嫌いなんだよね。

 

【炎】

毎朝の通学のバスで、こっそりとその端正な横顔を眺めていた、あこがれの先輩がある日...学校のグラウンドで焼身自殺を遂げた。自殺の謎を解き明かすべく、彼に片思いしていた少女は、先輩の彼女だった女に接触を試みる。

うん、これいいね。こういう精神的怖さは大好き。本短篇集で1,2を争う面白さ。だけどさ、先輩。そんな理由で焼身自殺すんなって。それじゃぁ、頭がいいとは認めがたいなぁ。

 

【星くずドライブ】

ずっと同棲している彼女の様子が帰ってからおかしい。ってところから物語は意外な方向につきすすむ。これはこのあとの展開を知らないほうが面白いので、これ以上書きません。怖くなるのかロマンチックになるのか分からない不安な空気がたまらない作品。

 

【SINK】

とある理由で家族を失い、ぶっきらぼうな性格で他人にかかわらず生きてきた男の話。終盤の発想の転換シーンはカウンセリングの終着駅のようで気持ち良い。親子の愛情表現に対する理解って常にこういう誤解があるだろうし、真意はともかく良い方に理解したほうが幸せなのではないか。

 

ちなみにこの作品の書評を書くために、各章のタイトルをネットで調べていて衝撃を受けたのだが、三浦しをんって女性だったのね。「風が強く吹いている」の作風から勝手に男性だと信じこんでたよ...。