サイト内検索:  

星間商事株式会社社史編纂室

作者:三浦しをん/ 原作:/ 91点
【送料無料】星間商事株式会社社史編纂室

【送料無料】星間商事株式会社社史編纂室
価格:1,575円(税込、送料別)

■馬鹿馬鹿しさの仮面を被った良作

 

この作品を手に取ると、まず最初に眼を引くのがその奇抜なタイトル。「星間商事株式会社社史編纂室」ってのがひと目で読める人は中々いないだろう。タイトルからして冗談そのものであり、この作品がどういうテンションの作品なのかが滲み出す、なかなか良いネーミングだと思う。ちなみに答えを書いておくと、「ほしましょうじ かぶしきがいしゃ しゃし へんさんしつ」である。

 

物語の登場人物たちは星間商事という創立60年ちょっとの会社の社史を編纂すべく作られた、編纂室の社員たちである。総務課の編纂チームではなく編纂室という部署にわかれていることから何となく想像が付くとおり、ショムニと同じく彼らは窓際族扱いされている。

社員は中々個性的な面々が揃っている。主人公はBL同人小説執筆に人生をかけているため、プライベートを優先して出世コースから外れた仕事のできる女。後のメンツは、頭の悪そうなムチムチの女の子、偉い人の女と不倫したとかの噂のヤリチン先輩、とにかく馬鹿な課長、姿を見たことがない幽霊部長である。この漫画っぽいステレオタイプ「っぽい」メンツが、ドタバタの喜劇を繰り広げるのだ...ろうと思いきや、物語はなかなかの予想外の展開を見せる。

 

元々仕事ができないわけではない主人公は、何故か創立60周年記念に間に合わなかった社史を、ちゃんと完成させようと奮闘するのだが、その過程で、ムチムチの女の子がただのお馬鹿ちゃんではない事や、ヤリチン先輩の軽薄な性格が上っ面だけのものであること、そして二人が編纂室に飛ばされてきた本当の理由を知ることになる。

 

以下、ややネタバレ

さて、ネタバレ内で語ったように、社史編纂は思いもよらぬ壁にぶつかるわけだが、最終的にそれにそれとどう戦うかの展開がまた学祭的で面白い。主人公の同人サークル内での人間関係やヤリチン先輩のその後など、様々な物語が終盤に一気に解決に向かい、爽快に読み終わることができた。もうちょっと深い物語になるかと思ったけど、この人の作品にそんな暗さは似合わないか。このあと「天国旅行」のレビューを書くつもりだけど、個人的に三浦しをんの作品はこういう「漫画的都合の良い展開」のほうが好きかも。

 

唯一の欠点は作中作のBLシーンの描写が長すぎること。いや、別に長くても作品としては全く問題ないのだが、40歳目前のサラリーマンが電車の中で読む小説の内容が、会社の若手と上司のBL小説という光景を想像して欲しい。完全にあっちの人だよね、俺。結婚指輪が嵌っている事がこんなに有難かった事はないぞ。