永遠の0作者:百田尚樹/ 原作:/ 100点
■無駄のない完璧な構成
永遠の0は第二次世界大戦中の史実をモチーフにした、創作長編小説である。時代背景や戦況の移り変わりなど、歴史的背景については忠実に史実にのっとった描写がなされているのだが、戦争物というにはあまりにも構成が巧みで、文章表現が美しすぎる。歴史物が好きな人もそうでない人も、おおよそ小説が好きな人なら誰でも、ページをめくる手が止まらなくなること請け合いの、素晴らしい作品だ。先日無くなった児玉清さんが絶賛していた作品だというが、それも納得の出来栄えである。未読の方はここで書評を読む手を止めて、本屋さんにダッシュしていただきたい。
本作品の狂言回し(あえて主人公とは言わない)は、将来記者を目指す姉と、司法試験に何度も失敗し、やや堕落した生活を送る弟である。二人の祖母がなくなった後に、彼らは自分達のしる祖父が実の祖父ではなく、戦争で命を落としたもう一人の、本当の祖父が 存在するということを知る。姉はその祖父について調べてみたいと考え、戦時中の祖父の姿を知る者を順に訪ね、それらを記録して記事に起こすことにした。本作品の本当の主人公は、彼らの語る当時の思い出の中の祖父なのである。
物語の早い段階で二人は祖父が無くなった理由を知る。しかしその理由は納得のいかないものだった。そういった大前提が存在するため、本作品は単なる戦記物ではなく、祖父の死の理由を探すミステリ的な魅力も持ち合わせる。 以下、コンセプトに関する若干のネタバレ。未読の方は見ない事。
次々と明らかにされる祖父の姿は実に感動的なもので、僕なんかはもう、二人目のインタビューイの話を読んでいるだけで、泣きそうになってしまった。また、次々に明らかになる祖父の姿に、読む手が止まらなくなり、「読書は電車で」という習慣なのに、わざわざ帰宅後に取り出して続きを読み出したぐらいだ。 そして、美しい戦争物の小説として作品を終えるのかと思った最終章、最後の章で、これまでのエピソードは一気に集約されて意味を持ち、その完成された構成に気づいた瞬間、全身に鳥肌が立った。これほどの長編でありながら、これほど無駄のない作品は他に類を見ない。
おおよそまともな感覚を持つ読者なら、全員絶賛する事請け合いの、名作中の名作。今年上半期のNo. 1。皆様もぜひ。
ちなみに... 作者の百田氏の本業はなんと放送作家である。それもそんじょそこらの番組の作家ではなく、あの伝説のバラエティ番組「探偵ナイトスクープ」の中の人なのだ。2006年にはじめた書いた処女作がこの出来栄え。しかも戦争や歴史に詳しい人なのかな、と思いきや、多の作品はまったく別ジャンルのものばかり。いやはや、多彩な人だなぁ。
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