サイト内検索:  

三匹のおっさん

作者:有川 浩/ 原作:/ 77点
【送料無料】三匹のおっさん

【送料無料】三匹のおっさん
価格:1,600円(税込、送料別)

■サザエさんと同じ、正しい方向の予想通りっぷり

 

「三匹のおっさん」は三人のおっさんが活躍する小説である。何だかこの一文で全てを語ってしまった気もするが、まぁ、もうちょっと語ろう。本作品は、結構おっさんに萌える有川浩が趣味的に?書いた、おっさんの良い所を全面に押し出した作品である。有川浩が時代劇も大好きだとのことで、タイトルは「三匹が斬る!」のパロディなのだと思われる。え、知らない?ズッコケ中年三人組とも間違えそうだが、こちらは多分偶然だろう。

 

本作品の主人公であるおっさんたちは全員60過ぎの元同級生だ。剣道の達人キヨ、柔道家で居酒屋の元店主シゲ、機械弄りの天才である工場経営者ノリの三人が自警団のようなものを結成して、年寄りの冷や水世の中の役に立つ活動を行う物語である。これまでの作品ではおっさんというと40〜50歳ぐらいを指すことが多かったのだが、いい加減若い老人が増えてきたことから、60代をおっさんとし、おじいさん扱いしないあたりが、有川浩らしいリアル志向だと思う。

 

物語は正直ご都合主義で、全てが思い通りにいくペース。事件は暴力か武器によって制し、問題は謀略による脅迫で解決しと、半ば犯罪まがいのことばっかりやってはいるものの、やってるのが「近所のワルガキが悪さをしたのを見てぶん殴って何が悪い!」って感じの昭和の匂いがプンプンするおっさんなので、全然気にならない。むしろ爽快感を感じるぐらいだ。この辺り、自警団の苦悩を描いた「ダークナイト」や「ウォッチメン」とは毛色が180度異なる。って、そんなの小説の表紙の絵を見た瞬間に誰にだって分かるか。

老人の格好いい所を平易な文章で明るく描いてくれたってあたりで子供にも読ませたい所ではあるが、ちょいとドギツイセリフを登場人物に平気でホイホイ喋らせるので、残念ながら中学生以降にしかおすすめできない。勿体無いなぁ。

 

設定等々には詰めの甘い部分もたくさんある。例えば、飼育委員がなんでいまごろ爺さんのところに、とかいう心理的に不自然な設定もそうだし、個人的に気持ち悪いのはパソコンのメモリに電気ショックを与えるあたり。メモリは一時記憶だからそんな事する必要ないから。むしろweb上にupされていることを懸念してそっちを探すべき。機械いじりの天才っていう設定のオジサンが居る以上はそういう穴って結構萎えるんだよね。天才の設定である以上は、読者の上を行ってくれないと困る。

また、途中から肉体派あまり活躍していないのも残念。いや、戦う場面では活躍しているんだろうけど、文章にはその活躍がほとんど登場しないのだ。それというのも途中で物語に恋愛色を強くしすぎたのが原因。そりゃあの爺さんばっかり活躍する羽目になってもしょうがないだろうなぁ。

 

とまぁ、ちょっとキツイ目の感想を連発したが、それでもこの作品はなんか「いいなぁ」と思わされる。ってのも、おっさん趣味を自称する有川浩の、おっさんたちへの愛情がそこかしこに滲み出しているから。

例えば、物語の展開にあまり関係がないのに、やたらと詳細に語られるおっさんのファッション。60過ぎのおっさんにもっと格好良くいてもらいたい作者の思いが露骨ににじみだしている。そして何よりそうだよね、と思ったのは、「催眠商法」についての問題分析。以下ネタバレ内に隠しておきます。

 

ってなわけで、ライトに気持ち良く楽しめるし、ネタバレ内のような理由により、心にも優しいなかなかの佳作。誰にでも軽く読めるのでひまつぶしにおすすめです。