凍える牙作者:乃南アサ/ 原作:/ 71点
■風を切って走るその美しさ
「凍える牙」は乃南アサによるミステリ作品である。ただし書籍に「新潮ミステリー倶楽部」って書いてあるから、ミステリと紹介はするものの、どっちかというと刑事ドラマ的。読み始めて最初に感じたのは「なんか宮部みゆきっぽいな」って事。警察組織の薀蓄が多くてリアル志向である一方、派手な推理による劇的展開なってのは一切ない。物語中盤にはほぼ事件の全容がわかるというスタイルだ。
乃南アサの作品はこれが初めてで、当たりかハズレかドキドキしながら読み始めた。で、読み始めて直ぐの「燃える男」っていっても情熱的な男ではなくて、炎に包まれて焼死する男の描写にいきなりゲンナリ。炎に包まれて「熱い熱い!助けてくれ!」なんてそんなセリフは多分無い。焼かれてる最中にどんだけ冷静なんだお前は。 更にその後のステレオタイプな男社会の描き方にもゲンナリ。いくら警察が男社会だからって、そこまで全員が女性警官を差別しまくるかいな。いや、実際にはそんなものなのかも知れないが、そんな部分をあまりにも強調されるせいで、その男女差別的なものがなにかストーリーに大きく絡むのかと勘ぐってしまった。実際には特に物語の本筋には絡まなかったわけだが。
とまぁ、ここまでの感想を読むと、何だか面白くなさそうだなぁと思われそうだが、実は全然そうでもない。最初の燃える男以外の表現については表示に自然で読みやすく、目がなめらかに文章を追うことができる。物語中の大きな謎ともいうべき部分は、実は本書の中程で7割方明らかになってしまうのだが、そこからがむしろ物語として面白くなってくる。
以下、ガッツリネタバレ
ネタバレ内のような理由により、終盤に向かうにつれ、本作品がどんどん好きになった。ただねぇ。犯人の殺意とその手段については色々と考えさせられるよね。いいのか、そんな事で。
Copyright barista 2010 - All rights reserved. |