ツナグ作者:辻村深月/ 原作:/ 88点
■都合が良すぎると言われようとも
辻村深月の作品を読むのは「本日は大安なり」に続きこれが二冊目なのだが、素直に脱帽。凄いな、この人の才能は。前作とは全く別ジャンルの作品でありながら、全てがハイレベル。どういう物語なのか、一切知らずに読んだほうがお得なので、未読の方はまずは本屋さんへ行くべき。僕の書評なんざ読まなくて良いから。
以下、本作品がどういうコンセプトの作品なのかに触れます。何も知らない真っ白な状態で読みたい人は、ここでストップ。
本作品のタイトル「ツナグ」とは「使者」の事である。ツナグには特殊な能力が備わっている。それは依頼人と死者を引き合わせる能力である。死者と引き合わせるといっても、イタコのような能力ではない。ツナグはあくまで死者と依頼人の仲介人であり、だからこそ「使者」と書いて「ツナグ」と読ませるのだ。 彼らは仲介することによって両者の会合をなり立たせるが、会合には厳密な条件がある。それは「依頼人は1度死者と会合すれば、二度と他の人と合うことはできない」「死者の側に合うことを拒否されると合うことはできない」「死者の側も一度誰かに呼び出され、それを受け入れると、もう二度と誰にも呼び出してもらえない」という3つの条件である。
上記のような説明を読むと、典型的ホラーやファンタジーかのようだが、全くそういうジャンルの作品ではない。人間の心の動きに重きをおいた文学色の強い作品で、設定も方向性も違うが全体に漂う雰囲気は「死神の精度」に似ている。 ただ大きく違うのは、対象が死にゆく人なのか、残された者なのかという点。この違いは大きくて、「死神の精度」が神の視点で書いたただの文学作品と捉えることもぎりぎり可能な作品となっているのに対し、本作品はファンタジー色の強いものとなっている。
【アイドルの心得】 休止したとあるアイドルと会いたがるファンの女性の話。これ、完全に「飯島愛」がモデルだよね、多分。全員がどうかなんてのはわからないけど、本作のアイドルにかかわらず、芸能人ってのはみんなのイメージの100倍努力しているすごい人達だと思う。
【長男の心得】 長男であれと育てられ、長男であろうと努力し続けてきた、現実的な男が主役。ちょっと角度がズレていただけで、みんなお互いを思っていた家族なのだなというハートフルなエピソード。
【親友の心得】 とある女子高生二人の物語。人間は煽てられているうちに自らの評価を見誤ってしまうことがある。濁った目は自分の評価を歪めるし、相対的に他人の評価も歪めてしまうのだ。ちょっとしたミステリ的要素が入り、ストーリー的にも凝っているが、「謝罪」の意味など、哲学的に結構シビアな観点も盛り込まれ、なかなか読み応えのある1作。
【待ち人の心得】 とある女の子の事が忘れられなくて、7年間彼女も作らずにワーカホリックとしての日々を送る男性が主人公。有りがちといえばそれまでなのだが、どれでも悲しい物語だよね。 本編には全然関係ないのだけれどこの物語、働き過ぎで背中から首のあたりが攣って、友人を呼び出すところから始まるのだが、先日自分も同じ症状になり、朝に同僚が同じ症状で病院行きになった日の昼休みに、この物語を読むことになったので、相変わらずの偶然にちょっと驚いた。
【使者の心得】 前4章とはカラーが異なり、「使者」の少年がいかにして「使者」を引き継いだかの物語である。死者と会って話すことの是非などを、これまでの章を振り返りながら考えることとなる。この手の種明かし的な章を入れるべきか否かは賛否両論だろうが、結果としては成功してるように思う。ただ、あの件はどうしてもハリウッド映画にありがちな「説明不足による失敗」のような後味の悪さを残した。あれがなければもう少し評価を上げたかもしれないのだが。
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