本日は大安なり作者:辻村深月/ 原作:/ 98点
■幸福な小説
「本日は大安なり」はとある結婚式場を舞台とした、多数の登場人物が活躍する物語である。各章ごとに主役級の人物は入れ替わり、その人物の視点で物語は語られる。そのうちの一人はウェディングプランナーの女性で、彼女が実質的な主人公である。すべての物語は同時進行で進み、それぞれの物語の中で少しずつ謎が深まる構成となっている。そういう意味では伊坂幸太郎作品に近い。
読み終わってから巻末の初出を見て驚いたのだが、どうやらこの作品、当初は連載の形で執筆され、それぞれの主人公の物語が1つのまとまった章をなし、最後にまとめの章が2章、という構成だったようなのだ。「単行本化する際に、大幅に加筆修正を行った」と書いてあるのは、それを分解して現在の形に再編したのであろう。 この試みは「出だしに全体が掴みづらく、なかなか入り込めない」というほんの少しの問題を抱えた代わりに、中盤からの大きな快感を産み出すことに成功している。この再編がなければここまで面白くはならなかっただろうと思う。いや、初出を読んでないので、本当に想像通りの再編が行われたのかどうかは知らないけれど(汗)。
各章の主人公たちはどれも個性的。手の付けられない客に苦労するプランナー。頼りない新郎にある決意を抱く少年。美人の双子姉妹。苦労して「運命の人」を射止めた元ミュージシャン。それぞれの物語は中盤まで非常に普通の形で展開する。しかし中盤から「え?」と疑問を抱かせたら最後、終盤に向かって物語はどんどん想像もしなかった方向に進んでいく。これらが終盤に美しく集約された瞬間、脳内麻薬がドパッと出て、電車の中だというのにニヤニヤしてしまった。いやはや、満足。
以下、具体的内容には触れないが、作品の方向性について触れるため注意。
とまぁ、ネタバレ内に細かい思いを書いたのだが、妙齢の女性にも男性にもおすすめの一冊。特に結婚式を終えた夫婦なら自分たちの時のことを想像して、懐かしく読むことができるだろう。えっと、当時を思い出した結果、夫婦喧嘩になっても責任は持ちません。念のため。
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