| サイト内検索： | |
死神の精度 Accuracy Of Death
 【送料無料】死神の精度 |
■無情とは平等
死神の精度はその名のとおり、死神を主人公とした小説である。彼ら死神たちは、事故などの突発的な原因によって死を迎える予定の人間の元に現れ、彼らの死が「可」であるか「見送り」であるかを8日間で見極め、その結果を返答する。その結果が「可」であった場合、対象の人間はそのまま事故などの理由で死を迎える事になる。
と、このような概要を聞くと、「そうか、感動的な人間ドラマを目にした死神が、ついつい『見送り』をやってしまうハートフルな作品なのだな」と直ぐに想像がつく。実際自分も大好きな映画作品「ジョー・ブラックによろしく」と比べてどっちが良い出来かな、などという気分で読み始めたのだが....非常に驚いた。ビックリするぐらい死神にハートが無いのだ。デスノートの死神の方が断然ハートフルなぐらい。
彼らは気まぐれとしか思えないような理由で「見送り」を選択する事もある一方で、われわれなら絶対に助けてあげたいような人間にも「可」を発令し、あっけなく見殺しにしてしまう。最初の方を読んでいた頃は「なんだか涙の絞り方のわかってない作品だなぁ」と思っていたのだが、途中で大いなる間違いだった事に気づかされた。
本作品の死神は感情に左右されない。多くの作品の死神は「俺は感情に左右されない」といいながら情にほだされがちなものだが、本当に左右されない。そして彼らは対象者が選ばれた理由も知らなければ、何故自分たちがその判断に携わっているのかも知らない。
実はこの無情さにより、本作品は単なるファンタジやホラーの枠から脱却し、文学的な普遍性を手に入れているように思う。完全に無情な作中の死神は、その無情さゆえに現実世界の神、もっと言うなら「偶然」と同じ立場なのだ。
したがって本作品の死神は、登場人物と会話してしまっているとはいえ、小説における「神の視点」や、主人公達の「自問自答の相手」と置き換えてもなんら問題はなく、死神が主人公であるにもかかわらず、半ば死神が存在しなくても成り立つ構造となっている。あくまで本作品の主人公は、それぞれのエピソード中の登場人物たちであり、彼らが限られた命をどう使うか、それが本作品の主軸となっている。そこが新しいし素晴らしいと思う。
【死神の精度】
死神はあるコールセンターの女性の元を訪れる。彼女は非常に大人しくて地味な女性である。彼女はストーカー目的と思しきクレーマーの男性に悩んでいた。さて彼女に「可」を与えるのか「見送りを」を与えるのか、と言うのが本作品の骨子。
他にいろいろと面白い短編もある中、この短編のタイトル「精度」を作品全体のタイトルとした所に、偶然＝運命について描こうという作者の意思を感じる。
【死神と藤田】
次に死神が訪れたのは古臭い任侠心を大事にするヤクザ、藤田の元であった。本作はちょっとしたサスペンス作品のような構造。デスノートのような戦略性の面白さがよい。
【吹雪に死神】
とある山荘に旅行客たちが集まった。外は悪天候で大吹雪。悪天候から逃れようと１人の男がその山荘を訪れる。本作はある閉ざされた雪の山荘でのような、典型的な古典ミステリの体をなしている。...ただ一つ、訪れた男が死神であった事以外は。遊んでいるなぁという感じのミステリ作品。
【恋愛で死神】
あるブティックの店員の元に死神が現れる。男は現在恋愛中で...と聞くとありがちなストーリーに落ち着きそうだが、思ったとおりの結末にはならない。男が自分で自分の運命を選んだ形となるのが美しい。
【旅路を死神】
伊坂作品らしい、個性的な性格の殺人犯の元に死神が現れる。死神は彼を評価しなければならないし、男は目的があって旅をしていたため、二人はちょっとした観光旅行のようなたびをする事になってしまう。ミステリっぽい終わりと結末を見せない潔さが良い。
【死神対老女】
床屋を営む老女のものとに死神が現れるのだが、老女は彼が死神である事をひと目で見破ってしまう。そしてその上で老女はある「願い事」をする。童話に「ちぢれ毛を真っ直ぐに伸ばせ」など無理難題をおしっつけることで、鬼を追い払う物語があるんで、そういう物語を想像して読んでいたのだが、彼女の目的はまったく異なるものだった。その目的が素晴らしいだけでなく、さらにもう一つ驚きの展開が待っている。この１作を読んだ瞬間に、この小説全体の評価が一気に上がってしまった。お勧め。
|
Copyright barista 2010 - All rights reserved.