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錨を上げよ

作者:百田尚樹/ 原作:/ 71点
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価格:1,995円(税込、送料別)

■面白いが読者を選ぶか

 

「錨を上げよ」は百田尚樹によるハードカバー上下巻に渡る長編文学作品である。これまでに読んだ「永遠の0」「影法師」が圧倒的な感動の中にも放送作家らしい計算された構造感を感じるのに対し、本作品は1本の濁流のような構造となっており、かなり異質に感じる。

 

物語の主人公は又三というやや古風な名前を授かった男である。彼は、--- 少なくとも他人から見た評価を正とするならば--- 非常に短気で堪え性がなく衝動的な男だった。そのために少年時代から多くの厄介事に巻き込まれ、非社会的行動や反社会的行動を繰り返す、典型的な問題児として育ってしまう。しかし彼の心の中には、芸術を愛し純粋さを尊ぶ、知的で情熱的な感情も備わっていた。いや、その感情が故に衝動的な行動を起こし、より困難な方角へと舵を取る結果となっていたのだった。

 

本作品を読んでみて感じたのは「ライ麦」的だなということ。彼はホールデンほど弱くもなければ、言い訳じみてもいない。しかし、純粋さを信じ、「最善」だと盲目的に感じる方角へと迷いこむ姿はホールデンのそれとダブって見えた。あまりにも「非道い」行動の描写が多く、あまりにも駄目人間として描かれるシーンが長すぎるため、読んでいる自分の心が途中で挫けそうになってしまったが、同じジャンルの求心力があったのは間違いない。

以下少しだけネタバレ

 

ネタバレ内に書いたような理由で多くの男性は彼に部分的に共感し、あるいは捨てた過去を魅せつけられて恥ずかしい思いをし、終盤のある男の語ったセリフに納得させられることになるだろう。

一方、この作品を女性に薦めたらどうなるかというと、おそらく多くの方が途中で投げ出してしまうのではないかと感じる。そのあたりも含めてライ麦に似ているなと感じた。そんなわけでなかなか面白かったけど、スコアは少し控えめにした。読んだ分量分のカタルシスが得られるかという事を考えた上での配慮。