ステップ・アップ監督:アン・フレッチャー/ 原作:/ 78点
■21世紀のフラッシュダンス
ステップ・アップはアン・フレッチャー監督によるダンス映画である。ダンス映画というと、雨に歌えば、フラッシュダンス、ラ・バンバなど定期的にヒット作が出るものだが、本作品はその末席に名を連ねるに値する、なかなかの名作だといえよう。
ダンス映画というと、大体ワンパターンな展開になることが多い。本作品も、その例に漏れず、お定まりの展開だ。才能はあるが、真面目な人生を送ったことのない主人公。努力しているがまだ花開くにいたっていないヒロイン。二人が出会って、化学変化が起こり、夢を実現という流れである。 実の所、この展開はダンス物に限らず、スポーツ物の作品には頻繁に登場するパターンである。例えばスラムダンクやピンポンがその典型だし、広い目で見ればタッチだってそうである。結局、スポーツ物はこの「才能の有るヤツが努力して一気に開花」と、「才能のないやつが努力でちょっとずつ成長」の2パターンが殆どだといってよい。 後者の良い所は誰もが主人公に好感を持つ所であり、欠点は物語が地味になることである。一気に成長すると、前者との見分けがつかなくなってしまう。前者の良い所は、物語がドラマチックになる所であり、欠点は主人公に共感できないことである。才能に物を言わせる姿は凡人からは嫉妬の対象となるし、それまでの努力していなかった姿の記憶が残っているからだ。「一般人が猫をなでると猫好き。ヤンキーが猫をなでると実は優しい人」というのは、ギャップ演出の定番だが、みんないい加減その胡散臭さには気づいているのだ。
本作品は才能型の作品であるにもかかわらず、その「共感がもてない」部分をうまく回避している。物語前半は、アメリカのスラム街に住む、どうしょうもないヤンキーの姿が描かれるため、「またかよ」と思ってみていた。友人兄弟と一緒にクラブに行って馬鹿騒ぎをし、車泥棒をしてはそれを売りに行ったりと、散々な姿を見せられるからだ。しかしながら、非常に明確な彼らの反省シーンを盛り込んでいるため、「散々ヤンチャしておいて、ダンスがうまけりゃ万事うまくいくなんざ、才能あってよかったなぁ!」という、やっかみ心を持たずに見終わることができるのだ。
以下、物語終盤の重要な事件に触れます。
映画中のダンスがまた素晴らしい。監督がもともとダンサー出身であること、出演者の多くが本職のダンサーであることもあり、「ダンス映画なのに、主役のダンスが下手じゃん!」という目を覆いたくなるような事態とは無縁である。うんそれは避けなきゃね、と誰もが思うのだが、邦画のスポーツ物は未経験者に主演をやらせることがあまりに多く、スタントマンやスタンドインが活躍し、本人の演技はガタガタということも多い。そのあたりのスピリッツはハイキックガールなどを見習ってほしいと思う。まぁ、あっちは脚本・編集に難ありだが。
主役のタイラーを演じたチャニング・テイタムは、本作品で一気に有名となった。どこかで見た顔だと思っていたら、G.I.ジョーの主役の彼だった。彼とヒロイン・ノーラとの最後のダンスは息もピッタリ、最高に格好いいのだが、チャニング・テイタムとノーラ役のジェナ・ディーワンはこの映画をきっかけに後日結婚している。そりゃ息もあうわな。
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