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白夜行

作者:東野圭吾/ 原作:/ 81点
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価格:1,050円(税込、送料別)

■転がり落ちるかのように

 

白夜行は東野圭吾による長編作品である。1冊にまとめあげられた文庫本は、京極夏彦かというぐらいの分厚さである。単にページ数が多いだけではない。本作品で語られる物語は数十年にわたる。一連の事件がどのように関連しているのか、果たしてこの物語の「主役」は誰なのか、これが本作品前半の楽しみ方となる。

本作品の前半はなかなか熱中度が上がらない。ミステリの定石どおり、早い段階で事件が発生するにもかかわらず、どれも深く追求されることはなく、主役不在な物語に感情移入も難しいからだ。しかし、一連の事件のつながりに、気づき、「主役」の存在が明らかになった瞬間、物語は一気に加速する。

 

実の所、本作品のトリックその他はあまり緻密なものではない。冷静に考えれば、もっと他の手がありそうだし、警察にもバレそうな気がする。登場人物たちの考えは浅く、動機は不純かつ軽率で、一つ一つの行動は常に場渡り的である。しかし、それがであるがゆえに、ミステリ特有の「凄いけど、そんな設定はないわ」というような不自然さはなく、逆にリアルに感じた。

 

最後まで読み終えると、主役の半生がリアルに脳内構築される。にわか雨でできた水の流れた痕跡は、次の雨で深い溝になる。時代を経れば大河になることすらあるのだ。

 

 

なお、映画版では美しい部分を強調して、犯人がモンスターになってしまわないよう、苦心したのだという。犯人の心にもゆがんだ部分と美しい部分が同居する。特に本作品はその若干の美しさに気づけるかどうかが重要であるため、監督の判断は的を射ているといえよう。

一方、原作では明らかにモンスター的な部分もしっかり描かれている。苦しみを理解しできるのは同じ苦しみを味わったものだけ、その部分を利用する描写には鳥肌が立った。