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ペンギン・ハイウェイ

作者:森見登美彦/ 原作:/ 95点

■傑作ファンタジー作品

 

僕は幼稚園の年長組の頃、年少組の先生が大好きだった。先生に会いたいがゆえに、自由時間はいつも年少組で遊んでいたぐらいだ。確か栗田先生とかって名前で、茶髪のロングヘアーの似合うちょっとヤンチャな風貌だったように記憶している。今考えると、33年前にそれってのは、かなりヤンチャである。そういや茶髪ソバージュの15歳ぐらい年上の従姉妹もちょっと好きだったし、意外とヤン姉好きだったのかもしれない。

閑話休題。僕の個人的記憶はともかくとして、男の子ってのは成長の過程のどこかで、1回ぐらいはそういう年上のお姉さんに恋心を抱くものである。多分、目覚めつつある男としての部分での女性としての評価と、子供としての母性への愛情が入り混じった形での恋心なのではないだろうか。

 

本作品はそんな淡い恋心を抱いた少年の姿を見事に描いた、傑作児童文学である。物語の主人公は父の教えでなんでもノートにメモを書く習慣を持ち、いつも何か「研究」を行なっているという、なかなか聡明な少年である。彼は常に大人であろうと努力している。例えば彼は5歳になってから一度も腹を立てたことがない。状況を分析し、つねに冷静な観点から効率の良い解決を目指す。無論、それは彼がお姉さんに追いつきたいがゆえに、必死で背伸びをした結果なんだろうと想像できる。

一方のお姉さんは、少年が通う歯科医院で歯科助手として働く女性だ。イタズラ好きでフランクな口調。大人気ないようでいて、何でも知っていそうな、ちょっとミステリアスなお姉さんである。子供が憧れるのに相応しい、理想的なお姉さんであるといえよう。先日読んだ「夜は短し歩けよ乙女」でも感じたが、森見登美彦はこう言うステレオタイプを、美しい標本としてサンプリングするのが抜群に上手い。読んでいて童心に戻った上で、お姉さんに恋しそうになってしまった。

 

さて、こういう児童文学としての構造がバッチリ決まった作品であるというだけではなく、本作品にはファンタジーというもう一つの顔がある。事の発端はある場所に突如として現れた、ペンギンの群れである。このペンギンが一体どこから現れたのか。またそれらをトラックで移送中に起こったある事件の原因は何なのか。少年は疑問をノートに取りながら、これらの謎に挑戦していくのだ。

 

物語はファンタジーのような、SFのような、壮大な結末へと導かれる。この構造をどう解釈するかが、本作品の一番深いところでの楽しみ方になるだろう。

 

以下、結末に関するネタバレを含む個人的考察。あくまで私見なのでわざわざネタバレ覚悟で未読の人が読む必要は無いです。

 

大人が読んでも子供が読んでも楽しめそうな、傑作ファンタジー作品。っていうか子供に読ませたいなと感じた作品。これも超お勧めです。