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犯人に告ぐ

作者:雫井脩介/ 原作:/ 52点
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■理解はできるが共感できない

 

「犯人に告ぐ」はいわゆる刑事ドラマタイプのミステリ作品である。宮部みゆき作品を始めとする、警察の捜査の詳細な動きをリアルに追いかけたタイプの小説が好きな読者には、結構ハマるんじゃないかと思う。ただ個人的には頭のほうでどうにもイライラさせられる部分が多くて共感できず、深く入り込んで楽しむことが出来なかった。

 

以下、若干ストーリー展開に触れるレビュー&やや批判的な内容になるため、ネタバレ嫌いの人と雫井脩介ファンの人はブレーキ。

 

物語は少年の誘拐事件から始まる。しかし、通称ヤングマンこと巻島刑事は様々な事情により事件を解決することが出来ず、被害者の少年は亡くなってしまう。まんまと逃げおおせる犯人。悔しがる刑事。連続する事件の中、果たして刑事はどう犯人を追い詰めるのか…って展開だけ書けば、非常に一般的な作品でどこが悪いのかわからないのだが、もう、この冒頭で個人的には投げ出しそうになってしまった。

まず、事件も犯人も大して描いてないのに最初から警察の内部事情について長々と書き立てる。しかも管轄の違う刑事たちは互いの功を争って、捜査に支障をきたす。少年の死後の巻島達は、いかに警察がマスコミに叩かれないよう、記者会見に望むかに悩み、それに失敗したことに悩む。

 

いやね、狙いはわかるのさ。刑事ってのは仕事で刑事をやってるのであって義侠心でやってるわけじゃない。で、そんな刑事たちが失敗して失脚して後悔して、で、今度こそはってリベンジを果たすって構造が作りたかったんだろう。

でもその「構造」を早く作って後半戦の知略戦を早く書きたいとばかりに作者が焦ったのか、前半戦の描写があまりに無情で素っ気なくて、読者としては全く感情移入できないんだよねこれ。

挙句、再度犯人逮捕のために立ち上がったメンバも、まぁ、功を焦ったり、色恋沙汰に走ったりとちっとも真剣さが見えない上に、主人公の感情も見えないせいで、リベンジシーンになっても誰にも感情移入できないのだ。犯人も模倣犯のスマイルみたいなカリスマ的悪人では無いため、読んでいて犯人よりも寧ろ刑事たちに対するムカつきが蓄積してしまい、犯人逮捕にいたっても何の快感も感じなかった。むしろあいつの失脚の方が山場に感じたぐらい。しかも失脚ってほどじゃないし。あいつが漏らしてたってTVに流して人生を滅茶苦茶にするぐらいの報復がないと、読中のイライラ感に全くそぐわないぞ。

 

犯人逮捕につながる展開自体はまぁまぁ面白くて、パズラー読みをすればさほど悪くない作品だと思う。だけど、だったらあのエンディングは何なんだ。今更媚びてんじゃねぇと思ってしまったぞ。

以下、ネタバレ

 

とまぁ、かなり厳しいことも書いたんだけど、好きな人は好きな作品だと思う。面白くないとは言わないけど、僕はあんまり好きじゃなかったです、これ。

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