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僕は、そして僕たちはどう生きるか

作者:梨木香歩/ 原作:/ 98点

■集団の中で生きる人間とう言う動物についての深い考察の物語

 

小説にはいろんなタイプがある。僕は結構多読破で何でもかんでも面白いほうだが、「これは面白い!」と絶賛するものには、ストーリー展開が巧妙であるものが多い。ところがこの梨木香歩という作家の作品には例外が多い。大掛かりな仕掛けなど無いのに、気がつけば心をギューッと捉えられてしまい、オチに感動させられるというより、継続的に感動させられるのだ。

彼女の作品の中でも僕がこよなく愛しているのが「家守綺譚」という作品である。家守綺譚は夏目漱石のような明治期の作家のような空気の中、ファンタジックな物語を軽妙な文章で語った、非常に美しい物語であった。

一方、この「僕は、そして僕達はどう生きるか」という作品は、とても現実的で辛い設定の物語を、非常に現実的な設定のもとに書き綴った作品である。ところが、そんなシビアな物語であるにもかかわらず、冒頭からずっと僕は心を掴まれたままだった。梨木香歩特有の魅力が、いつもと同じように溢れているのだ。多分単純な文体や、ストーリー上の人物設定などではなく、登場する人物の物事を評価する基準といった、そういうミクロなそこかしこに、梨木香歩らしさが埋め込まれているのだと思う。非常に不思議だ。

 

本作品の主人公は、「コペル」という渾名の少年だ。彼はその年令と比較して非常に聡明な少年である。彼は、よもぎを採集したいという従兄弟のために、庭の植生が非常に豊かな友人である「ユージン」の家を、久しぶりに尋ねることにした。彼はコペルの幼馴染であったが、とある理由により長く学校に来ておらず、彼らの間には少し緊張した空気が漂うのだった。

 

以下、物語全体の構造や、物語が目指した方向性について語るため、未読の人はブレーキ。

 

ネタバレ内に書いたような構造により、読者は人間関係や生きることについて深く考えなおさせられることになるだろう。他人との摩擦に疲れたらまずは全てを放り出して逃げてみて、その後ゆっくりこの本を読んでみるのが良いのではないだろうか。