ハチミツとクローバー監督:高田雅博/ 原作:羽海野チカ/ 19点
■脚本に目的感がない
本作「ハチミツとクローバー」はハチクロの愛称で親しまれる傑作漫画の実写映画化作品である。「見ないほうが良い」と言われ続けて来た作品ではあったが、「原作に熱狂していた時代から間が空いたことだし、冷静な目で見れば意外と面白いのでは?」との思いからレンタル視聴してみた。結果としては「見ないほうが良い」とまでは言わないが、「わざわざ見る必要は無い」って感じだった。
まず最初に押さえて置くべき重要な事実がある。それは本映画が漫画本編の完成前に撮影された映画だということだ。僕はその事実を知らなかったので、「物語終盤の芸術家としての葛藤の部分がぜんぜん汲みいれられてない!」と憤ってしまったのだが、それはお門違いなのだ。 映画の公開は漫画本編が終わる一週間前である。当然、撮影開始は半年以上前だったし、脚本は一年以上前にかかれたものである。おそらく「竹本君の旅」の完了ぐらいまでしか進んでなかったと思われる。 以上のような理由により、この映画は「恋愛映画」として評価すべき作品である。そもそも作者の羽海野チカ自身が当初この物語を真山を主人公とした恋愛漫画として描く予定だったと言う事もあり、そういう方向で描かれる事には問題が無い作品のはずである。
...けど、そういう視点で見てもなんだか腑に落ちないんだな、これが。
以下、ハチクロ原作漫画を全て読んでいる前提でのレビュー。原作をまだ最後まで読んでいない人はクリック禁止。
ネタバレ内に随分厳しいことを書いたのだが、でもまぁこの監督、CMしか撮ったことなくて、初の映画監督だから気が回らなかったんだろうな。…と、そう思ったのだが、どうもそうでもなかった様子。
作中変なモザイクのかかったCGの猫がそこら中に出現する。気になって全然映画に集中できなかったので、何の意味があるのだろうと後で調べたところ、「同じ町で起こった出来事だってのを強調したくて」などという変な作意で挿入したのだとか。全く共感不能。そもそもハチクロはひとつの町で完結する意味のある物語じゃないし。
この事実が発覚した時点で、単なる「俺色に染めた映像は素敵だろ」系、自慰監督に分類。自分の色を出す前に、まずは原作へのリスペクトが大切じゃないのか?もうこの監督の映画は見ない。多分。
あ、最後にいい部分もちょっとだけ。あおい優のはぐは意外とハマり役。堺雅人の修ちゃんもなかなか。伊勢谷友介の森田は雰囲気はあるけどごつ過ぎなのと、脚本がだめなので生きなかった印象。意外と松潤とかはまりそうな予感。理花さんも結構はまり役だと思う。...ファブリーズって単語がチラチラする以外は。グッズを集めても、この理花さんの匂いは残ってないぞ→真山。
あ、最後に悪い部分をもうちょっとだけ。全体的に監督がアートをわかって無さすぎだと感じた。 例えば才能の塊である予定のはぐの作品がどれも酷すぎる。パステルカラーでお花畑を書いたら芸術とか思ってるのは素人だけである。カンバス内の明暗のバランス感覚すらないのに、よくCM作れるなと不思議に思った。そもそもあんな余白だらけの絵は、完成品とすら認めてもらえないぞ。監督は映像を白黒変換して見直してみると良いと思う。 森田の水墨画シーンもわかってないなと感じた。あのシーンは「ス−−−」と書くべきであって「サササ」じゃ駄目なんだ。完成品の龍は見るも無残な落書きレベル。あれなら俺でも書ける。彼は水墨画がどういう芸術なのかを欠片ほども理解していない。そして羽海野チカの描いた、あの1コマの美しさも理解していない。 唯一「作品」と呼べたのは、はぐと森田が戯れで看板に描いた絵ぐらい。森田役の伊勢谷がどっかの番組に登場したときに、「美大出の伊勢谷が劇中で書いた作品がそのまま映画に採用された」という説明があったのだが、多分この絵じゃないだろうか。確認は取ってないが、唯一あれだけが「作品」に見えたので間違いないと思う(好き嫌いは別にして)。
同じCM監督上がりでも、映像だけは一級品だった紀里谷監督とは随分毛色が違うなぁ...。
おまけ: たまに見に行く前田有一さんのサイトを見に行ったらこんな評価がされていて、あまりの頓珍漢さに思わず大声で笑いそうになった。前田さんたまにこういうレビューを書くんだよなぁ…。「原作を知らない人には全く理解できない」って事実を大人の事情でオブラートに包んだんだろうけど、原作ファンには絶対受けないかと。
Copyright barista 2010 - All rights reserved. |