新世界作者:柳 広司/ 原作:/ 87点
■素晴らしい出来だが心に突き刺さる
新世界はあのマンハッタン計画の本拠地「ロスアラモス」を舞台としたミステリ作品である。ただし、正確に言うとちょっと異なる。「『ロスアラモスを舞台としたミステリ作品』の原稿を有る男に手渡された柳広司が、日本語に翻訳した作品、という形をとっている作品である。 実はつい先日読んだ「パルテノン」という作品も、同じようなスタイルで描かれている。冒頭にギリシアに旅行した柳広司が登場し、そのあと3章に渡る古代ギリシアの物語が語られる構成となっているのだ。なんでこんなスタイルを取るのかは不明。氏がリアリティ重視の作品を書く都合上、「これはつくり話だよ」と強調しているのかも知れないが、逆に「ある人に聞いた話なんだけど」って又聞きの事実のように感じてしまう気もする(誰か意図をご存じの方がいたら教えてください)。
閑話休題。本作品はロスアラモスで起きたとある事件のフーダニット、ホワイダニットを明らかにするミステリ作品である。が、しかし、読者の多くは本作品がミステリ作品であることを忘れてしまうことだろう。
物語は上述の通りロスアラモスを舞台に進む。そして原子爆弾の初の実験中のエピソードや、実際にそれを使用し周旋した後の開発者たちの行動などが、非常に精密にリアルに描かれるこ。そこにはオッペンハイマーなど実際にマンハッタン計画に参画した実在の科学者たちが実名で登場し、読者は途中からノンフィクション作品を読んでいるかのように錯覚することだろう。
しかし物語は中盤より、ミステリ色とホラー色を一気に強める。ミステリとして読もうとするとホラー的要素を持ち込まれ、ホラーとして読もうとするとミステリ的展開を魅せられたりと、読者はいいように操られるはずだ。そして解決編はあっと驚くような展開を見せる。
以下、結末に触れるため注意
本作品はネタバレ内のような理由でホワイダニット・ミステリとして非常に卓越した魅力を持っている。また、その凄まじい表現力によって、反戦・反核小説としても圧倒的なパワーを発揮するだろう。 本作品では舞台設定の都合と上記ネタバレ内の都合により、爆心地の非常に恐ろしい描写シーンが存在する。自分は年齢的に子供の頃に「はだしのゲン」を読んでトラウマになった世代なので、文字を読んでいるだけで様々な映像が浮かび、怖くて泣きそうになってしまった。絵の怖さは有限だが、文字から想像する怖さは無限なのである。
そんなわけで、物凄く感心した作品だが、おすすめ度としての点数はやや辛めにさせていただいた。元気のないときには読めない本だと思う。自分はとある病人のシーンを昼ごはんを食べながら読む羽目になってエライ目にあった。お勧め作品ではあるけど、なるべく元気なる昼間に読むよう、気をつけて頂きたい。
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