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ばくりや

作者:乾 ルカ/ 原作:/ 87点
【送料無料】 ばくりや / 乾ルカ 【単行本】

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価格:1,575円(税込、送料込)

■テンポが良くてえげつなくて、そして面白い

 

「ばくりや」は乾ルカによるえげつなくて楽しいホラー系?作品である。ホラーといってもお化けが出てくる話ではなくて、ちょっと不思議な物語とかのレベル。世にも奇妙な物語みたいな感じ。そういう意味のホラーとスプラッタな意味のホラーを明確に使い分ける用語ってなんか無いのかな。僕が知らないだけ?

「ばくる」というのは北海道の方言で「交換する」という意味。なので「ばくりや」は「交換屋さん」ってぐらいの意味となる。ではこの「ばくりや」が何を交換するかというと、訪れた人間の「能力」を交換するのだ。特定の才能や能力と見なせるものであれば交換可能であるが、型の合うタイプの能力保持者が現れないと交換はできない。また、交換する能力を選ぶことは出来ず、交換成立までに事前にその能力を知ることもできない。例えば「あやとりが得意」という能力者が「こんなの不要だ!」とばくりやでお願いした結果、「道路を歩くと必ず「犬の糞を踏む」という能力と交換されてしまうこともあるのだ(僕がさっき考えた例であり、本編にそんなシーンは登場しません)。

 

そんなわけでこの物語全体に漂う雰囲気は「笑うせえるすまん」のそれである。この「ばくりや」という作品は多数の短編の集まりで構成されており、その中にはバットエンドとハッピーエンドの作品が織り交ぜられている。それぞれの作品は完全に独立しており、面白いのが正直者が幸せになるとは限らない構造。なので教訓的な何かを目的としているわけではなく、結末が分かると余韻もないぐらいの勢いであっけなく物語はそこで終わってしまう。ブラックな笑いとしてスッパリ切って取ってしまうのだ。そのあたりも含めて「笑うせえるすまん」的な雰囲気である。

 

ネタバレ内に述べたように、ストーリー展開にも工夫があるし、世界観も独特で面白い。何よりもテンポが良くてあっという間に読めてしまうので誰にでも読みやすい作品だおともう。久しぶりにあたりを引いたなという感じ。是非一度読んでいただきたい。

 

ちなみにこの作品は辻村深月の「本日は大安なり」と装画の作者が同じだからという理由で奥様がジャケ借りしてきたのだが、大正解。新しく面白い作家に出会うと嬉しい。本の装丁って、新しい作家との出会いにおいては結構重要だよね。