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スーパー!

監督:ジェームズ・ガン/ 原作:/ 82点

■ウォッチメンでは生ぬるい!?

 

スーパーは分かりやすく説明すればリアルアベンジャーズのお話である。って一般人には分かりやすくなってないか。もっと噛み砕くとリアルスーパーヒーローの話なのだが、ここでヒーローという言葉を使うと微妙に意味がずれてしまう。というか、このズレこそが本作品のタイトルがSuper HeroではなくSuperに留まった理由であり、本当は微妙どころの騒ぎではない。パーマンとスーパーマンぐらい違う。

 

スーパーヒーローがもしも現実に存在したらという視点で描かれた作品というと、ダーク・ナイトやウォッチメンなどを想像する人が多いのではないかと思う。前者は「超法規的なヒーローとは社会的には犯罪者にすぎない」という点が分かりやすく描かれた作品だし、後者は「ヒーローになろうなんて奴はそもそも異常性を秘めている」ってぐらいまで掘り下げた作品である。「だったら今更こんな安い映像で描き直す必要は無いだろう」と思われそうだが、ちょっと待って欲しい。この2作はまだ「現実に存在したら」を満たしきれていない。

ウオッチメンに登場する連中のほとんどは、明らかに一般人の平均を超える能力を持っている。描写がリアル志向だとはいえ、近所にロールシャック様が住んでいるかもとは考えないだろう(いたら怖いし)。また、バットマンは科学グッズがないと普通の人間だってことになってはいるものの、彼は忍術的な物を習っている。アメリカ人にとっての忍術は超能力と変わらないので、いかに科学が発達してもバットマンが現実に登場することはありえない。

 

しかしスーパーの主人公であるフランクはどこにでもいる一般的な、いや、一般以下のオッサンである。彼は子供の頃から非常に冴えない奴で、人生で素晴らしかったと記憶に残るのはやたら美人の奥さんとの結婚式ぐらい。なのでこの映画を見た誰でも、彼と同じ手順で簡単にスーパー何とかになることが可能である。

 

以下、ストーリーの概略に触れます。ネタバレに敏感な人はストップ。

 

では彼はなぜ「変身」したのか。実は唯一の自慢だった奥さんだが、結婚してまもなく愛情は冷え切り、何と麻薬中毒になってギャングに寝取られてしまった。で、憤った彼は取られた奥さんを取り返すために、いや、「彼の中の正義」を突き通すために、衣装を自作し、夜の街に貼り込んで世の中の悪に目を光らせ始めたのだ。

ここまでの説明だとなんら奇異な作品には感じないだろう。しかし実際に映像を見ていると、とても気持ちが悪い。中途半端に太ったオッサンが、継ぎ接ぎだらけの真っ赤なスーツに身を包んで、夜な夜なゴミ箱の影で町を見張っているのである。どう好意的に見ても変わった趣味のストーカーにしか見えない。

そして彼は町のチンピラに呆気無くボコボコにされる。だってただの人だもん。所が物語はそれをコメディ路線には繋げない。特殊な力のないヒーロのお手本としてバットマンらを参考にした彼は、悪と戦うための武器を得る。それは配管工事用の金属レンチであった。一応スーツとあわせて赤いレンチだ。で、彼は悪を徹底的に懲らしめる。麻薬を売るチンピラの顔を金属レンチでボコボコにする。女性にちょっかいをかけた男性の顔をボコボコにする。列に横入りして注意してもやめない奴をボコボコにする。とにかく問答無用で警告なしにいきなり殴る。

 

上記の活躍(?)を見て、ヒーローへのあこがれを感じる人は皆無だろう。寧ろ怖さしか感じない。結構屈強な男や喧嘩慣れしたチンピラも呆気無くボコボコにされるのだ。何故かというとそれは人としての常識が無いからだろう。どんなヤンキーだって、普通は殴る前にイチャモンを付ける。いきなり視界の外から、しかも最初の一発が金属レンチなんていう喧嘩はだれだって想定していない。実は我々の安全を守る最初の壁は人間の「理性」というブレーキなのだ。

したがっていくら彼が悪人(と思っている対象)だけを対峙しても、それを賞賛する気にはならない。頭のオカシイ男が日本刀を振り回して『僕は正義だからみんなを守るよ』とか言っても誰も安心しないだろう。それと同じ状況である。

 

そんなわけでこの映画は「超法規的正義」がいかに病的で恐ろしいものかを非常にリアルに描いた作品である。このリアル志向っぷりは他の同様のテーマの映画の追随を許さない。

しかしその一方で、見ている間は変に面白いし、見終わった後も変に後味が良い点が凄い。このあたりは監督の絶妙のバランス感覚による成果だと思う。なので、これだけえげつない映画なのに、みんなにお薦めしたい一作となった。多少の残酷描写が気になら無いなら必見ですよ、これ。

 


おまけ:

ちなみに、本作のヒロインとして重要な役割で登場するのが、X-MENやJUNO、インセプションなどで有名となった、エレン・ペイジである。彼女がこの作品のぶっ飛んだ笑いの8割ぐらいを稼いでいるぐらいに、重要な役割だった。。こういうアホなことにも挑戦する、彼女だからこそ、本作品がハマったんじゃないかなと思う。

エレン・ペイジといえば、X-MENの幼い時代は超可愛かったし、その後どんどん女性っぽくなったなぁと応援していた女優の一人だが、最近ちょっと太っておばさん臭くなり、ハリウッド女優かつ童顔の賞味期限は短い」という不文律を証明してしまった。...がしかし!、本作品ではいつの間にか激やせしたらしく、スレンダーなスタイルで、あの可愛らしい笑顔を復活させている。彼女のファンなら見逃す手はない。(ただし、ショッキングなシーンあり)

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