クジラの彼作者:有川 浩/ 原作:/ 68点
■取り敢えず自衛隊員必読の甘々小説
「クジラの彼」は有川浩による自衛隊員を主役に据えた、ベタベタ甘々の恋愛小説である。「阪急電車」の時にも書いたが、この人こういうテーマ小説が抜群にうまい。下調べが美味いのか、あるシチュエーションに対する想像力が豊かなのか。とりあえずこれだけ甘々小説が好きってことは、妄想力が卓越しているのは間違い無いと思う。 なお、本作品も巻末のあとがきを読んだ限り、実際に自衛官の知り合いがいるせいで、いろんなリアルな体験を見聞きしているようだ。そのせいか、ロールアウトなどを読んでいてもその日常のリアルさに脅かされる。いや、自分は自衛隊に入ったことがないので本当にリアルかどうかはわかんないんだけど、多分リアルなんだろうなという描写に感心する。
【クジラの彼】 えらく文学的な書き出しに「本格文学作品か?」と思ったら、いつも通りのライトな甘々でガッカリしたというか安心したというか。潜水艦乗りという非常にレアな男と付き合う彼女の話。実は僕が家を建てる時に最初に話をした住宅営業さんは、元潜水艦乗りだった。とにかくどこにいるのか、いつ上がれるのか、守秘義務以前の問題として、そもそも彼ら自身も教えてもらえなかったりするらしい。 実は「海の底」という作品の番外編との事。番外編だから甘々で本編はシリアスのなのだとしたらちょっと読みたいな。
【ロールアウト】 とある軍用機の開発における要件定義の仮定を描いた作品。仕様を詰める技術者の女性と、要望を挙げる自衛官たちが登場する。この話、甘々部分以外がかなり好き。プロジェクトマネージャとかSEとかやってる人だと、かなり共感のもてる作品じゃないのかな。どうしても必要な機能を、あるいはどうしても切り捨てるべき機能を、何とかして納得してもらうべくプレゼンするシーンには感動。そうそう、そうなんだよ。机上では実感なんてしてもらえないんだよなぁ....。
【国防レンアイ】 これはもう、自衛官であるという事実がなければただの古臭いラブコメ。どこの青年雑誌のラブコメ漫画かと思った。いくら自衛官とはいえ、こんなステレオタイプばかりではあるまい。
【有能な彼女】 「クジラの彼」の同僚の話。彼と彼女は良い相性なんだろうね。自分ならあんなタイプは耐えられない。面倒くさい。失言の言葉尻を捕まえるより、背景たる本心を読み取れる能力のある女性のほうがいいな。
【脱柵エレジー】 いやはや、なんとも青い。青すぎる。若い頃に重要だと思っていたことが、年をとると屁みたいに馬鹿らしことになったりすることはよくあるよね。でもまぁ、そんな恥ずかしさも含めて人生の醍醐味なんだろうな。
【ファイターパイロットの君】 働く女の苦悩。「空の中」という作品のの番外編らしい。いい話なんだけど、ちょっと普通すぎる。こっちは特に原作を読みたいとまでは思わなかった。
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