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風の中のマリア

作者:百田尚樹/ 原作:/ 96点
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■マリアは夏を知らない。それは暑い季節だったという

 

またすごい作品を書いたな、この人は。「風の中のマリア」は同じジャンルの作品は二度と書かないと決めているという噂の百田尚樹による、オオスズメバチのワーカーを主人公とした小説である。蜂が主人公と言っても、ミツバチハッチのような昆虫の生態を無視したトンデモアニメでもなければ、犬が主人公などの有りがちなファンタジー系小説とは毛色が全く異なる。

 

本作品の主人公、マリアはオオスズメバチのワーカーである。生物に詳しくない人には耳慣れない言葉だろうから簡単に説明しておくと、ワーカーとは社会性昆虫である蜂において、女王蜂とは異なり、原則として子孫を残すことが無く、巣のためにひたすら、一見「利他的」に働く、メスのことである。「働きバチ」と言ったほうが耳に馴染みがあるだろうか。

リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子(Selfish Gene)」で有名になった事実であるが、全ての生き物は「遺伝子を残す」為に行動している。個体の生死より遺伝子のコピーを残すことのほうが重要である。母親が子供の命を救うためなら、自らの命を投げ出す事すら厭わないのはこのためである。ところが、社会性昆虫におけるワーカーは自分の子供ではなく、兄弟や母のために自らの命を投げ出している。この一見利他的な行動の理由はなぜか、これは長らく生態学者を悩ませてきた謎であった。さてその理由は...というと、本編に非常にわかりやすく説明されているため、ここでは語らない。

 

本作品は、ハチやその他の昆虫が人間のように考え、会話するという一点を除き、ほぼノンフィクション作品と言ってよいぐらいに、科学的に正しく描かれている。昆虫の生態に馴染みのない人は、物語としての面白さと、知識欲の充足という2つの意味で楽しむことができるだろう。

一方、大学と大学院で7年間も生態学をやってきた僕としては、当然それらは既に知っている事実ばかりなのだが、擬人化された視点で語られる物語に、新たに認識を書きかえられた気分になった。文庫版の巻末で養老孟司氏が解説している通り、昆虫の神経束に意識がない、人間の脳に意識があると断ずるのは、われわれの主観の問題にすぎない。彼らの本能や反射と呼ばれる行動決定を意識だとして捉えたときに、目の前に現れたのは壮大な命のドラマだった。

 

僕は「マリアは夏を知らない。それは暑い季節だったという」という、この序盤の1文で既に鳥肌がたった。我々が氷河期を知らないのと同様、彼らには夏や冬が遠い過去や未来なのだ。「ゾウの時間ネズミの時間」という有名な書籍が存在するが、そこで語られている通り、短命な生き物には恐ろしく濃度の高い人生があり、相対的には同じだけ生きていると考えて良い。積分して考えると我々より寿命の長い地球は、我々をハチを見るような目で眺めているのかもしれない。

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