魔王作者:伊坂幸太郎/ 原作:/ 67点
■世界観は嫌いじゃないのだが...
伊坂幸太郎の作品はひねた主人公が登場する現代劇が多い印象をうけるが、よくよく考えると「オーデュボンの祈り」のようにややファンタジ色をもつ作品も多い。本作品もその例に漏れず、ややファンタジ的設定を有する。ただ注意しておきたいのは「オーデュボン」の時もそうだったが、本当にそれがファンタジなのか、それとも集団心理や思い込みなのかはギリギリのラインで明らかにしない事で文学性を維持しているのが、伊坂作品の特徴である。このあたりのバランス感覚はちょっぴり村上春樹に似ている。
本作品は大きく前編と後編に分かれる。前編はある能力を身に着けた、あるいはそう思い込んでいる兄が主人公の物語である。彼はとある政治家の言に反発し、その自らが身につけたと考えている能力にて、それを阻止しようと試みる。 一方の後編は、やはり別の能力に目覚めたと自認している弟が、兄の言葉を思い出しながら、やはり独自の方法で戦おうとする物語である。
この作品を読んだ読者全てが感じるであろう感想は、「え、で、結末は??」であろう。無論、ある程度「節目」とでも言うべき結末はそれぞれの物語に準備されているのだが、彼らの努力が何をもたらすのかなど、具体的な結末は描かれずじまいで物語は終わりを迎える。 では一体この物語は何を描いているのか?おそらくこれ、政治に対する国民のあり方とか、そういう姿を描いた作品なのだろうと思う。以下、結構ネタバレなので、未読の方は注意。 とまぁ、ネタバレ内に書いたような、見立てがいろいろ入っているのではなかろうか。
そんなわけで、世界観も嫌いじゃないし、いろいろ考えて書いているのはわかる。ただ、小説として販売している以上は、もう少し深く心に突き刺さる何かがほしいなと思うのだ。それが物語的結末である必要はないから、何かもう一歩。
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