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チルドレン

作者:伊坂幸太郎/ 原作:/ 86点
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■爽やかな文学性をもつライトミステリ

 

自分が初めて読んだ伊坂幸太郎作品は「オーデュボンの祈り」だったのだが、なんて幻想的で深い作品を書くのだろう、と非常に驚かされた。村上春樹のような深い文学性を持ちつつ、ちゃんと物語を着地させる事のできる素晴らしい作家だなぁと感心したものだ。その後、ラッシュライフ、アヒルと鴨のコインロッカー、「陽気なギャング」シリーズなどを読み、その作風の多彩さに感心させられたものである。

伊坂氏の作品には、無理な理屈をこねまわして回りを困惑させる、唯我独尊タイプの男性がよく登場する。京極夏彦作品で言えば榎木津タイプだ。「陽気な〜」ではこの特徴的なキャラクタが物語をコミカルに楽しくしていたし、「アヒルと鴨」では物語を牽引する役割を果たしていた。本作でも「陣内」という名前の男が登場し、周りの登場人物と読者の両方を引っ掻き回し、これが実に面白い。氏の書く榎木津タイプは場合によっては「キツい」キャラクタである事が多く、人間的に好きになれなくて作品の印象が下がる事もあるのだが、本作の陣内にはそれが無い。愛すべき変人といえよう。

 

なお、本作品は陣内とその友人達を描いた5つの短編で構成される。それぞれはあえて時系列を組み替えて並べられており、これが抜群の効果を発揮している。

 

【バンク】

学生時代の鴨居と陣内が閉店間際の銀行に飛び込むと、そこに銀行強盗が現れた。銀行員と残った客はそのまま人質となってしまう。緊迫した状況にもかかわらず、謎の行動にでる陣内。「交渉人」っぽい幕開けだが、展開は全然違ってコメディ寄り。しかし、客の中に混じっていた永瀬という盲目の青年の推論によって、事件のの思いもよらぬ真実が明らかにされる。正直真ん中あたりのある台詞で真実はすぐにバレてしまうのだが、陣内と永瀬のキャラクタが面白くて、飽きさせられない。なかなかの佳作。

 

【チルドレン】

時代は一気に10年ほど進み、陣内はなんと家裁の調査員となっている。物語は陣内の後輩である武藤の視点で語られる。初っ端からあの人の存在が怪しすぎて、「バンク」以上にわかりやすかった。ただ、陣内の成長の方向性に面白いなぁと関心。大学時代にちょっと似た雰囲気の友人がいたので余計にそう思う。結末はちょっと出来すぎだけど、ライトな作品なのであまり気にならないかな。

 

【レトリーバー】

陣内が家裁調査員の受験勉強中のエピソード。ある女性に振られた陣内が周囲の異常に対し、とんでもない推論を語り始める。これも理由は直ぐに想像ができちゃうんだけど、陣内の無茶な主張が可愛くてよい。陣内が突拍子もないキャラクタな分、永瀬や永瀬の彼女など脇役の描写は非常にリアルで、そこが上手いなと思う。最後の「復讐」はより一層可愛いのだが、そろそろ10代の人には通じなくなるかも知れななぁ。

 

【チルドレンII】

武藤が担当する離婚調停のエピソード。途中までまた直ぐにネタバレだなぁと思っていたら、もう一個おまけがついていた。そしておまけの方が結構格好いい。本作品中で一番好きなエピソードかも。

 

【イン】

陣内のバイト先を永瀬と優子が訪ねる話。これまた2秒でネタバレなのだが、最後に「それの話かーー!」と喜ばされる事になる。難というのか、サービス品だね、これ。大好き。

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