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シャーロック・ホームズ

監督:ガイ・リッチー/ 原作:ライオネル・ウィグラム/ 79点

■基本的に天才=変人なんだよね

 

「シャーロック・ホームズ」は自らも若干のシャーロキアンを名乗るガイ・リッチー監督による2009年の映画である。配役が物凄くて、ハリウッド俳優の中でもデップ様と並ぶ個性派のロバート・ダウニー・Jrがホームズを演じているばかりか、ワトソン役にいたってはジュード・ロウである。奥様に見せたら、「ワトソンがこんなに若くて格好良くていいのか!」とワトソンに失礼な発言をしていた。しかし、サモアリナン。

 

物語の主軸は「ブラックウッド復活事件」である。物語冒頭、ホームズとワトソンは、黒魔術を扱い、若い女性を次々と殺害していたブラックウッド卿を逮捕する。ブラックウッドは処刑前の面会相手にホームズを指名し、処刑後の検死は他ならぬワトソンが担当する事となった。しかし、処刑されたはずのブラックウッドは蘇り、黒魔術を使った殺人事件が始まる。

 

シャーロック・ホームズの世界に魔法など存在しないので、彼の復活や黒魔術の仕組みを、ホームズがいかに解決するかが本作品のストーリー的な見所となる。実のところ本映画においてミステリ要素は少なめで、解決編に達しても「あー、はいはい」ぐらいの濃度ではある。ただこのあっけない感じは子供の頃によんだシャーロックホームズに似ているように思う。新本格を読みすぎて麻痺しているだけで、昔読んだ本格ってこんなものだったかもなぁ。

とまぁ、若干ミステリ部分は物足りなさを感じるが、本作品の魅力はそれ以外の部分にある。1つはキャラクタ造形。もう1つは映像表現である。

 

まず、前者について。「これまでに無い」というアオリの通り、びっくりするような配役かつ、冒頭の拳闘のシーンで「なんだこりゃおもしれぇ」と思ったものの、実はその後はあまり違和感を感じなかった。子供の頃読んだ小説中のホームズはワトソンをからかうシーンが多く、天才だけど変人のイメージがあったので、ロバード・ダウニー・Jrの台詞回しがピタリと納まってしまったのだ。

Wikipediaには「これまでの紳士的で清潔感のあるホームズ像とは全く正反対のような」と書いてあるのだが、この意見はアメリカ人かイギリス人の意見なのでは無いだろうか。海外版ドラマのホームズはイギリス紳士キャラクタが強調され、確かに「紳士的で清潔感のある」人物として描かれていた。しかし、子供の頃に読んだ小説版はもっと活動的で行き当たりばったり立ったような記憶がある。自分のように小説しか読んでいない人は、案外今回の設定は違和感が無いのでは?というのがbaristaの分析である。

ちなみにメイキングを後で見たところ、銃でVRのシーンや、あの女、あの教授などは全て原作にも登場するのだそうな。「若干ヤク中でボクサー経験有り」なんてあたりも原作どおりだそうなので、驚くべきはむしろ原作の主人公造形ではあるまいか。

設定が嵌るかどうかはともかく、この二人の造形が抜群に良い。好き勝手なホームズに悪態をつきつつも、ついついのめりこんでしまうワトソンの姿が微笑ましい。お前ら同○愛...とちょっとかんぐってしまいそうになるが、冒頭にワトソンの婚約者が登場するので、それは無いようだ。この二人の会話の掛け合いや戦ってる最中の連携などが大きな見所となるのだが、欲を言えば、もうちょっと笑わせてくれたらなぁと思う。今のままでも充分良くできているとは思うが、画面が全体的にモノトーンで暗くなりがちなので、もうちょっとハリウッド映画的笑いでカバーして欲しかったように思う。

 

さて、もう一つが映像である。モノトーンっぽく加工した画面はいかにも古いイギリスという感じで、ちょうど建設中のタワー・ブリッジなど、映像を見ているだけで楽しい。この手の映像の良さは見てもらうより仕方が無いので、まぁ、実際にレンタルしてみていただきたい。パッケージの安っぽさにくらべ、本編の映像の美しい事に驚くだろう。(逆に言うと、あのパッケージはいけてない。再生前のメニュー画面の絵もワトソンが妙に老けて見えてダサい)。エンディングテロップの実写の水彩化部分は、非常にありがちな手法ではあるものの、めちゃくちゃ美しい。ちなみに一番感心したのは、メイキング中の舞台イメージのスケッチである。あれ10万だったら欲しいなぁ。壁にかけたい。

格闘シーンの描き方も独特。ホームズ特有の分析力で敵の動きを読みながら戦うのだが、そのスローモーション描写が秀逸。グラップラー刃牙を実写化するときには、ガイ・リッチー監督しか考えられないなと思った。

 

 

 

とまぁ、そんなわけで中々優等生だけど、あともう一歩、という感じの本作品。続編撮影中との話もwikiに書いてあったのでちょっと期待しておこう。続編はもっと盛り上がりますように。