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バットマンビギンズ

監督:クリストファー・ノーラン/ 原作:ボブ・ケイン/ 90点

■隠れた名作

 

バットマンビギンズはクリストファー・ノーラン監督による、アメコミ作品「バットマン」の実写映像化作品である。バットマンはアメリカ人には非常に愛されている作品であり、実写化は本作品で5作目となる(以前にレビューを書いたダークナイトは本作品に続く6作目である)。

本作品はその名の通り、バットマンの誕生についての物語である。それまでの別監督の4作品を引き継ぐものではなく、新たに世界観をリセットして再開したものだ。ちなみに原作バットマンを知らない人のために簡単に説明しておくと、バットマンとは普通の人間がコスプレをして悪人を勝手に退治する物語である。様々なギミックを使う事と、鍛えられていることから、普通の人間よりは強靭だが、あくまで中身はただの人間。また、ただの人間かつ警察等の組織には所属しない為、悪人を退治する行為は法的には犯罪である。

したがって、バットマンという作品を題材とした映画を撮る場合、彼の強さが不自然に見えないよう、ギミックをどれだけリアルに書くか、私的に悪人の退治を行なう姿をいかに身勝手に見せないか、またそれでいてあくまでそれが犯罪行為であるという事やそれによる警察との摩擦をどう描くかなどがキーポイントとなる。

 

本作の場合、世界観や設定、バットマンが用いるギミックのリアリティはしっかり確保されているといえよう。そのおかげで続くダークナイトは物語を描く事に集中できている。また、時代が新しいダークナイトには当然及ばないものの、過去のどの作品と比べても、同時期の他の作品と比べても映像の凄さは折り紙つき。ただ、暗いシーンが多く、詳細がわかりづらい点は勿体無い。そのあたりは、撮影方法の違いもあり、ダークナイトのほうが圧倒的に進化している。

 

「ヒーローの誕生の理由」を説明し始めると、どうしてもベタな物語を想像しがちだ。実のところ本作品もかなりベタな脚本ではある(なお、この誕生の理由に関するあらましは、ほぼコミックスの原作どおりとの事)。しかしそのベタな物語を多額の制作費や、綿密なSF的設定にてじっくりと描いている点が、本作の面白みの一つである。これがよくある邦画なら、嘘っぽさがばれない様、誕生の秘話は数分の回想シーンの連続程度でやめてしまうだろう。

若干不満なのは、あの「忍者的存在」である。西洋人の目には「不思議な動きを実現しうる根拠」に映るのかもしれないが、日本人の目から見ると、魔法の原理を別の魔法で説明されたのに等しく、バットマンの超人的な肉体能力の説明として、説得力を増すにいたっていないのだ。しかし、その「忍者的存在」の存在意義などの設定は非常に面白い。よくある設定ではあるものの、「時代とともに武器を変え」のくだりでは、「そうだよね、それが一番効率が良いよね」と納得してしまった。このあたりが原作どおりなのかどうかは未確認。

 

脚本構成はなかなかのもの。「誕生編」でありながら、きちんとボスを一人準備し、脇役を活躍させ、爽快感のある映像も交えて、わかりやすいハリウッド映画の良さがある。ジョーカーのインパクトのせいで影が薄くなっているが、悪役の存在感は素晴らしく、目の前にいて怖いのは明らかに本作の彼だ。

映像的に、ストーリー的に、暗くて難易度の高いダークナイトに比べ、本作は万人向けでわかりやすい作品となっている。一方で、ヒーローとして目覚める最中ということもあるが、バットマンの行動には納得の行かない点も多々あり、ストーリーに突っ込みどころが多いのも事実。しかしながら、それも含めて監督の意向だろう。アメコミ的なヒーローの苦悩を第1作に盛り込んでは拒絶反応が出てしまう。第1作目できっちりエンターティメントに走り、2作目で伝えたいメッセージを、という計算だと思われ、その辺は実に上手い。ダークナイトの大成功は、バットマンビギンズの成功の礎なしには実現不能だっただろう。

 

個人的に好みだったのは台詞回し。主人公の父の「人は何のために落ちるのか」などの問いかけもそうだが、執事のウィットに飛んだ台詞が秀逸。また、自らの立場をごまかすために、主人公が無礼で馬鹿な金持ちかのように振舞うシーンでの台詞回しなども最高に格好いい。こういう台詞のクールさに関しては、アメリカ映画は強いなと思う。英語字幕を見直して台詞をメモしておこうかな。

 

そんなわけで、この完成度の高いヒーロー映画。万人に90点ぐらいかな。特に減点すべきところは多くないのだが、ダークナイトの衝撃に比べるとやや平凡側に舵を切っているのでこれぐらいに。ただ、分かりやすいし暗くない分、こちらの方が万人受けするかも。ヒロインもこちらの方が可愛いし。なんでダークナイトではヒロインを変えたんだよ、まったく。