サイト内検索:  

機動警察パトレイバー2 the Movie

監督:押井 守/ 原作:/ 82点

■名作(ただしロボットは活躍しません)

 

本作はうる星やつら・ビューティフルドリーマーで映画監督としての実力を見せ付けた押井監督のその後の代表作の一つ。押井流の「映画的映像」への拘りが随所に感じられる素晴らしい作品。

 

原作のパトレイバーはメディアミックスのさきがけとして企画された漫画・アニメであり、ゆうきまさみ氏の代表作といってもよい大作である。レイバー(ロボットのような物)を近未来の日本の日常風景に普通に溶け込ませて自動車と同様の扱いにし、人間ドラマやギャグなどレイバーが活躍しない話も多い構成は、当時のロボット物としては非常に斬新だった。中でもハードウェアに対するOSの重要性を説いた点はwindows登場より前の作品としては異例の新しさであった。

 

本映画は(原作と映画は微妙にパラレルワールドではあるものの)漫画の原作や映画の1作目の後日談となる話で、1作目からちょうど4年後。月日は主人公達の立場も考え方も変えてしまった。ストーリーは非常に単純でありながら、いわゆる説明台詞を担当する人物が存在しないため、理解難易度は高め。しかしそれだけに何度も見たくなる作品となっている。

作品中で取り扱われる事件は都市型テロ的な物であり、SF的でありながら、明日起こってもおかしくないリアリティのあるもの。非常にしっかりした脚本ではあるが、反面レイバーの活躍するシーンは少なく、ロボットアニメを期待して観ると拍子抜けするかもしれない。ガンダム0080 ポケットの中の戦争を観た際にも同じ印象を受けたが、「果たしてこれがパトレイバー/ガンダムである必要があるのか?」と思う視聴者が多いだろう。単なる戦争映画やテロ映画でも同じストーリーが成立してしまうからだ。

では、2作の脚本が失敗なのかというと、そうではないと思う。少なくともTVシリーズや原作に慣れ親しんだファンにとっては。アニメを実写化する際には映像のディテールアップが必要となるが、同様にアニメをアニメ映画化する際には、世界観や主人公達の行動原理のディテールアップが必要となる。ロボットが出演しなくても成り立つということはすなわち、その作品が波風を立てることなく現実世界に着水していることの証明であろう。

また本作品においては、「前作までの黄金時代がもはや遠い過去の物である」という時間の流れを表現する意味でも、野明たちの活躍を見せるわけにはいかなかった。しかし、1アニメファンとしてはアルフォンスの大活躍を、1シーンでいいから大画面で見たいのは必然だろう。

 

映像は非常に素晴らしい。1993年の手書きセルアニメであるにもかかわらず、最近の作品と見比べても見劣りしない。作画監督である沖浦氏の画風がリアル指向であることともあいまって、実写映画を見ているような落ち着いた雰囲気の作品である。音に関しても、レンタルしたDVDには1997年に再編集した音源が収録されており、最近の作品と比べても大きな違和感は無い。映像・音楽に関しては全く文句なし。非常に素晴らしい。

 

そんなわけで、本作は押井守好きには90点。単なるロボットアニメ好きには60点。意外なところで、日ごろアニメを見ない人にも80点ぐらいでオススメしたい。偏見さえなければ映像と脚本の出来に驚くはずだ。